食べたくなる

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有名な総合病院の個室に入院して、三食、普通の食事が出る。 必要なのは朝に数粒の錠剤を飲むだけ。 あとは院内で普通に過ごす、外出は不可。 暇で困るだろうと思っていたけど、テレビとテレビゲームの 一式があって、退屈どころかゲームに夢中になった。 あとは血圧や簡単な検診が一定時間にあるのみ。 身体に何かしらの異常も無いまま3日が過ぎた。 そして4日後。 「食欲のほうは変わりありませんか?」 と、診察のときに医師に言われた。 銀色のフレームのメガネをかけた若いイケメン医師だった。 しかも高身長で足が長くてモデルみたいだ。 看護師さんも女優のような美人さんが多いと感じていたけれど 医師になれる頭脳で容姿も良いとか羨ましい。 いやいや地味顔で大学も中級の僕だけど、恋人はいるぞ。 ちょっとしたはずみで借金つくるような男ですけどねぇ。 「あの、戸塚(とつか)さん?食欲は?」 色々と考えていたら、医師に再度、呼ばれた。 「あぁ、はい、食欲ですね、はい、あります。 でも、ちょっと不満はあるかなあ」 「不満、ですか?」 「はい、贅沢な不満なんですけどね。病院食って似通ってるでしょ? もちろん、この病院で出る食事はどれもおいしいですよ。 だけど、外で食べられるものが恋しくなりますよね」 「はいはい、わかります。お菓子なら売店で買えますけどね。 それで?どんなものが食べたいですか?」 「そうですねえ、アクリのレトルトカレーとか」 「アクリ?アクリ食品の?」 「はい、ちょうど食事の時間近く、お腹がすいたあたりで、 アクリのカレーが食べたいなあって、よく思いますね」 「そうですか。あれ、おいしいですよね」 「先生も好きですか?ふいに食べたくなりますよね。 辛いのが苦手なのに、アクリのカレーは食べやすいんです」 「なるほど。それで、他には?食べたいとか思いつきますか?」 「うーん、特には無いかなあ」 「わかりました。そうか、これで我々の思い通りになるのか」 「え?」 「あ、いえ」 「思い通りって?」 「え?そんなこと言いました?」 「言いましたよ」 そこへ看護師婦長の女性が声をかけてきた。 「戸塚さん、先生は初の大きな仕事で疲れてるんです」 そう言って気まずく笑い合い、診察は終わった。
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