芸術

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 高名な画家の取材にカメラマンとして同行した。  インタビュアーが画家にあれこれ質問し、二人の語らいは続く。  その最中、画家のとある言葉が意識に残った。 「私は常に、自分の絵には命が宿っていると思っているよ。私の手から生まれた私の魂の一部がね」  ああなるほど。それでこの画家の絵はみんな、描かれた人物が総て、画家と同じ顔をしているのか。  初めて作品を見た時から、妙な絵を描く人だと思ってたんだ。  老若男女誰を描いても、人物画の場合、描かれた人物の顔はみんな同じ。それが画家そのものだと知ったのはいつだったかな。  俺の中でこの人はずっと『変な絵を描く画家』だった。でもこの画家の描く絵がそう見えていたのは俺だけだった。  人に聞いたら、ちゃんと、人物画は総てモデルになった存在の顔をしているらしい。  それがどうして俺にだけ、全部画家の顔に見えるのか。  ずっと気になっていたけれど、さっきの話で腑に落ちた。  画家が絵に込めた自分の魂。それが絵の人物の顔の部分に宿り、全部画家の顔に見えるらしい。  まあ、そう見えているのは俺だけのようだから、世間的には何の問題もないのだろう。  ただ、男性、老人、子供はまだいいとして、おそらく本来は美人であろう女性の顔まで画家に成り代わってしまうのは、初見で絵を見た時ぎょっとするから、俺個人としては結構困る状態ではあるかな。 芸術…完
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