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第一話「腐った世界との決別」
--この世界はクソだと思った。
勝手に生み出しやがって、勝手に使命を押し付けやがって、それら全てに文句を言ったら「お前は神々の面汚しだ!」とまで言ってきやがった。
マジでクソだな。
だからオレは死ぬ事にした。
体が沈んでいく、どこまでも深い深い湖の底に。
いや、この湖には底なんて無いか。オレはどこまでも沈む。
どんな闇よりも深い奈落へと、堕ちて、堕ちて……。
やがて光すら見えなくなった。これが闇なのだろうか。
とても穏やかで、居心地が良い。最初っからオレに勇者なんて務まらなかったんだよ。
ざまーみろバーカ。
魔王討伐だぁ? そんなの、正統派の熱血主人公にでも任せろよ。
何もかもが面倒くさい。オレだけが人間じゃないと言う疎外感。
オレは、オレは……結局、何の為に生まれてきたんだろうな?
オレは、神々が魔王討伐用に造られた人型兵器『勇者』。
最初は男だった。しかし、オレの剣の師匠が教えてくれた。
「お前さんが魔王を殺すと、お前さんも死ぬ。その様にデザインされ、造られ、それだけの為だけに生み出された兵器じゃ。神の名の下にお前さんを鍛え、育てて来たが……すまん、血は繋がってないが、お前さんはワシの息子じゃ、お前さんには、そんな残酷な運命を辿ってほしくない」
その言葉で、オレの中の何もかもが崩壊した。
オレは泣いた、ひたすら絶望した。
聞きたくなかった。勇者の使命に誇りを持ってたオレに、なんてこと言うんだよ。
オレは、魔王を倒した後に、平和になった世界でやりたい事が沢山あったのに。
オレは、剣も、使命も、恩師も、何もかも捨てて逃げた。
それからだ、オレの人生が汚れ始めたのは。
清廉潔白な勇者、金髪碧眼の美貌の勇者、かつては魔王討伐に情熱を燃やしてた青年は、その使命から目を背けて、夜の街で酒に溺れ、女と遊び、賭博までした。
それを見兼ねた神々に呪いを与えられて、オレは勇者としての力が使えなくなり、罰として性別を変えられてしまった。
今は女だ。女になってからは、女遊びができなくなったし、男時代だった友人達から好色の目で見られるようになった。
酒、女、金、何をやっても、オレの心が満たされなかった。
女になってからは、亡霊のように死に場所を探して街を徘徊し、絡んでくる男どもを蹴り飛ばす日々。
面倒くさい。
金がない、働かなきゃ。
そうだ、最初っから勇者じゃなくて、オレは普通の一般市民になりたかった。絶対にそっちの方が幸せだっただろ?
そんな時に、あのエルフに出会ったんだ。
「あ、ああ、あのあの、ゆ、勇者様、ですよね?」
見覚えがある。この街の教会でシスターをやってるエルフの少女だ。
極度の人見知りで、常にフードで目元を隠している。
オレが一番嫌いなタイプだ。
「だったら何だよ?」
「え、えーと、お金、無い、ですよね? でしたら冒険者になりませんか?」
「は?」
「『ダンジョン』と言うモンスターを知ってますか?」
ダンジョン、その名前は前々から知ってた。
「未知の超巨大モンスターだろ? 体は石で出来ていて、体の中は本物の迷宮のようになっていて、今は国の隣で陣取っていて動かない不気味な怪物」
「は、はい! ワタシは、ダンジョンの生態研究を国王陛下から任されたエルフの『スノ』と申します。ダンジョンは未だに謎が多いモンスターです。ダンジョンの中に入った冒険者は次々とダンジョンに捕食され、その血肉を財宝に変えられています」
「で、その哀れな冒険者達の血肉で出来た財宝が、この国の経済を回してんだろ? 別に図体がデカくて動かない、何を考えてるのか分からない怪物の胃袋の中に自ら入るとか、本当にバカばかりだな」
「うぅ、おっしゃる通りです。そこで、勇者『スティンガー』様に冒険者になって、ダンジョンの内部を調査してほしいと……その、陛下がおっしゃってました……ワタシの判断じゃ無いので怒らないでください……」
やはり、このタイプの人種は嫌いだ。責任を全て誰かに転嫁する。自分だけ損はしたく無い腰抜け。
とは言え、オレに金が無いのも事実だし、生涯を剣に捧げて、ロクに働く事もできない穀潰しだ。
そんなオレが取れる選択肢は、やはりダンジョンの内部に入るしか方法は無かった。
だから、オレは宣言した。
「分かったよ、冒険者になってやる。どうせ行く宛も無いし、魔王も攻めて来ないし、ちょうど暇を持て余していたからな」
「あ、あり、ありがとうございます! さ、早速ギルドに向かいましょう!」
この決断が後に、あの『魔剣』との出会いになるなんて、この時のオレは知らなかった。
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