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ギルド、そこは謎の超巨大モンスター『ダンジョン』で財宝を取りに行く命知らず共の溜まり場。
オレは、ふと掲示板を見た。
『探索クエスト:冒険者パーティー『銀鷲』の魔術師の女性を見つけよ。ダンジョンの三階層で逸れた模様。現在、彼女の生死は不明』
銀鷲、たしか、オレが夜の街で知り合った冒険者のパーティーだ。
よく、オレにダンジョンで獲れた財宝を自慢してたのを覚えてる。
が、その財宝が人間の血肉で出来てる事はアイツらも知ってたはず。
なのに、目の前の現実を無視して黄金色に輝く財宝に飛び付く姿は滑稽だった。
オレは酒を飲みながら笑い飛ばしていたが、オレも等々、アイツらの仲間入りする日が来てしまったか。
「す、すみませーん、シスターエルフのスノです。勇者スティンガー様を冒険者にしたいのですが……」
いつの間にか、シスタースノは受付でオレの名前で冒険者登録をしていた。
受付の女性が手際良く書類仕事をした後に、冒険者の証である銀色の認識票をシスタースノの小さな手の中に収めていた。
それを見て、オレは一瞬だけ嫌な気分になった。
その銀色に輝く認識票すらも、ダンジョンが生み出す財宝のように、人間の血が流れてるんじゃないかと思ってしまったからだ。
それに自分の名前が刻まれるのを見ると、まるで今から死にに行く死刑囚のような気分になった。
なんで、冒険者は、こんな不気味な首飾りを下げてるのか、オレには理解できなかった。
「お、お待たせしました! スティンガー様の登録は完了しました!」
目元は見えないが、明らかに喜んでいるシスタースノが、背伸びまでして、高身長なオレの首に認識票を付けてくれた。
あんまし嬉しくない。
「じゃ、早速行ってくるわ」
「えー!? 一人でダンジョンに行くのですか!?」
「たりめぇだろ、オレは勇者だぞ?」
オレが力強く拳で自分の手を殴ってパンッ! と言った破裂音を鳴らすと、ギルドに居た冒険者達から笑われてしまった。
「ギャハハ! 『元』勇者だろ!」
「魔王討伐をやめて夜の街で遊んでる奴が何を言ってる!」
「しかも神々に怒られて女になってやがるじゃねーか!」
「そのデケー胸を揉ませろよ!」
ま、当然の反応だが、シスタースノはオロオロしていた。
「あ、あわわ、スティンガー様、お気を悪くしないでください」
「気にすんなよ。ここの連中も冗談で言ってるだけだ。真に受けんじゃねーよ」
「そ、そうなのですか? ……しかし、やはり装備を整えた方がよろしいかと」
「あん?」
オレが一睨みしたら、シスタースノはビクッとなったが、無理もない。
今のオレの服装は無駄にデカい胸を隠す為のボロ布一枚、男時代に履いてたズボンを引き裂いて動きやすくした自作ショートパンツに、何日も履き続けてるブーツ、それとかつては純白だった恩師から授かったロングーコートを羽織ってるだけの状態だ。
そのロングコートも、今では薄汚い灰色に染まってしまったが、たしかに冒険者の格好どころか、浮浪者みたいな格好だ。
しかも武器も何も無い、身を守る防具すら無い。
なんで無いかって? 金が無いからだ。
その金を取りに行く目的で今からダンジョンに行くのだが。
修行時代には普通のモンスターと戦った経験がある。だから素手でも行けると思っていたが、背後から若い男の声が飛んで来た。
「おいおい、スティンガーさんよぉ、アンタはダンジョンを舐め過ぎだ。魔王配下のモンスター以上のバケモノがウヨウヨ居る場所だぜ?」
「お前は……イーグルか?」
そこに居たのは、冒険者パーティー『銀鷲』のリーダーである青年のイーグルと、彼の仲間である盗賊の少年ユグ、僧侶の女性リサの三人が立っていた。
「しかも、お前、男だった時より弱くなってるだろ? オレ達はこれから魔術師のサラを助けに行こうと思ってる。ついでに、一時的だが、オレ達と同行しないか? 冒険者になったんだろ? アンタには、まずはダンジョンの恐ろしさを知るべきだ」
「……恐ろしさ……ねぇ……」
オレは、しばしの逡巡の後に結論を言った。
「ま、お言葉に甘えさせて貰うぜ。サラとお前達の付き合いは、そこそこ長い方だからな。いざとなったら、お前達を肉壁として利用させてやる」
「かー、相変わらず口が悪いな。そこは友情とか言えよ。女になって金髪美人になったのに、せっかくの美貌が台無しだぜ?」
「ハッ、こんなの、オレを作った神々の趣味だろ? 好きで美人になったわけじゃない。くだらない茶番はここまでだ。サラがダンジョンに喰われて財宝になっちまう前に行こうぜ。なんなら、財宝になったサラを拾って遊び続けるのもアリだな」
オレの皮肉を聞いてか、イーグルと仲間達は嫌な顔になった。
「冗談でも、そんな事言うなよ」
イーグル達に睨まれながら、オレ達はダンジョンに向かった。
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