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「……はぁ?」
スティンガーは目を疑った。ダンジョンの一階層は石の迷宮だったが、二階層は森林となっていた。
木々が生い茂り、緑豊かな場所であった。
しかも、屋内(?)のはずなのに、天井から太陽のような鋭い光が降り注いでいた。
「おいおい、これのどこが迷宮だ? ただの森だろ?」
スティンガーが目の前の光景にツッコミを入れるが、イーグル達からしたら日常的な光景なのだろう。
誰もスティンガーのツッコミに対して無反応だった。
コイツらに何を言っても無駄なのは再認識したので、スティンガーはイーグル達の後ろを黙って付いて歩くしかなかった。
それから数時間後、スティンガーは驚愕した。
目の前で、人間の女性が一本の木に喰われてる。
モンスターならまだ分かるが、木が触手のような蔦で、人間の女性を逃さないように、ガッチリと捕まえ、そのまま女性を吸収してるように見えた。
「……チッ、手遅れだったか」
イーグルが舌打ちをした事で、目の前の女性が誰なのかスティンガーでも理解した。
「……サラ? お前、サラか?」
今回の探索の目的である女性、魔術師のサラを見つける事ができたが、彼女の柔らかい皮膚が抉られて、骨が見えるぐらいまで肉が裂けていて、虚ろな目でスティンガーと目が合った。
「ス……スティンガー? たす、たすけ……て……」
その声を聞いた瞬間だった。スティンガーは何振り構わず、サラを救出しようとした。
「クソが! おい、イーグル! ユグ! リサ! 何をボッーと見てやがる! お前達も手伝え!」
スティンガーが蔦を引き千切るが、再び新たな蔦が生えて、サラの肉に深々と食い込んだ。
「痛い! 痛い痛い痛い!!」
「サラ! おい、サラァァァ!!」
サラは断末魔を上げながら、木に飲み込まれてしまった。
スティンガーは何度も拳で木に穴を空けたが、一階層の石の迷宮と同じで、自動再生してしまった。
スティンガーは肩で息をしながら、イーグル達を睨み付けて、イーグルの胸ぐらを掴んだ。
「テメェら!! なんで助けなかった!? オレ達、四人で力を合わせればサラを助けられただろうが!!」
しかし、興奮するスティンガーとは打って変わって、イーグル達は当たり前のように言った。
「スティンガー、あぁなっちまったら、オレ達がいくら頑張っても助けられねぇよ。アレがダンジョンの『捕食』だ。強力なモンスターから生き延びても、体力が瀕死状態だとダンジョンは、その冒険者を『エサ』と認識して、積極的に捕食しちまう。一度ダンジョンにエサと認識されたら詰みだ。オレ達にできるのは、捕食を眺める事しか出来ないんだよ」
その事実を知って、スティンガーの顔面は蒼白になってしまった。
気力を失って、スティンガーはイーグルから手を離した後、イーグル達はスティンガーを無視して作戦会議を始めた。
「サラを失ったのはデカいな。また誰かを補充しなきゃならねぇ」
「サラのような戦士みたいな魔術師は簡単には見つからない。それよりイーグル、リサ、一番重要なのは、サラ程の体力を一気に削ったモンスターが近くに居ることは確かだ。この事はギルドに報告して、もっと上の冒険者パーティーに頼もう」
「ワタシも賛成かな。ワタシは僧侶だから回復系の呪文は使える。仮に遭遇しても、すぐに回復させながら逃げる事ができる」
僧侶のリサの言葉にイーグルがうなづくと、イーグルは全員に向かって言った。
「サラは助けられなかった。が、サラを瀕死状態にするモンスターが、こんな浅い階層に出て来た事をギルドに報告するだけでも価値がある。みんな! 帰るぞ!」
目の前で仲間がダンジョンに喰われたのに、顔色一つ変えないイーグル達の態度を見て、スティンガーは怒りにも近い叫び声を上げることしかできなかった。
「ふざけんなテメェら!! お前ら狂ってるぞ! 目の前で仲間が喰われたのに、あっさり帰ろうとしやがって! せめてサラの仇ぐらい取ろうなんて気概は無いのか!?」
スティンガーが必死に叫んでみたが、イーグル達は言葉にせずに無言でスティンガーを見つめ、彼等が何を言いたいのかスティンガーは理解してしまった。
--これが冒険者の日常だよ。これ以上ギャーギャー騒ぐな新米。
ここに来てようやく理解した。冒険者とは、異常者集団の集まりだと言う事が。
スティンガーの首に下がってる冒険者の認識票は、冗談抜きで死を意味する首輪であると同時に、人間を辞めなきゃならない証だと理解し、スティンガーの心が大きく揺らいでしまった。
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