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冒険者とは何者か理解してしまったスティンガーは、意気消沈しながら帰路に付いていた。
たしか、ギルドで「サラが財宝になったら、その財宝で遊んでやる」とか言った気がするが、アレはダンジョンの恐ろしさを知らなかった無知から来るジョークのつもりだった。
しかし、ダンジョンの恐ろしさ、冒険者達の異常性、たったこれだけで、夜の街で遊んで暮らしてただけのエセ勇者であるスティンガーの精神を砕くには十分だった。
これから、毎日? 毎日毎日毎日? こんなバケモノの腹の中に入って? 人間の血肉で出来た財宝集めて「やったー! ラッキー!」とか叫ぶのか? 瀕死の重傷を負ったら、先程のサラみたいに、生きたままダンジョンに喰われて? それで、次の冒険者達の日銭となる財宝になっちまうのか?
で? それが『当たり前』になっちまうのか? 自分も、いつか目の前の冒険者みたいに、目の前で仲間が喰われても冷静な対応をしなきゃならないのか?
それの、何が楽しいわけ?
シスタースノ……いや、彼女の上司である国王は、何故スティンガーを冒険者にさせたのだ?
その真意は何一つ理解できないが、今ハッキリと言える事がある。
--嫌だ、帰りたい。もう二度と、こんなバケモノの中に入りたくない。カッコ悪いと思われても良い。勇者らしくないと言われても良い。冒険者なんて二度とやりたく無いし、もう彼等とは関わりたく無い。
心の中で泣き言を呟いていると、遠くから木々を薙ぎ倒しながら、こちらに何かが近付いてくる音が聞こえて来た。
「っ!? 何か来るぞ! 全員構えろ!!」
イーグルが背中の剣を抜いた瞬間だった。
真上から巨大な影が降りたかと思うと、僧侶のリサを、その巨大な顎で頭を丸齧りして、そのまま彼女を持ち上げた。
「ぁあぁぁああ!!」
リサが声にもならない悲鳴を上げたと同時に、リサの首と体が二つに分離してしまった。
リサの首がない体が落ちた後に、残った三人が頭上を見上げると、そこにソイツが居た。
青い鱗で覆われた巨大な蛇の怪物。
ソイツは、かつてリサだったモノを咀嚼しながら、こちらを見下ろしていた。
「リヴァイアサン!? なんで、こんな大物が二階層に出てくるんだよ!!」
盗賊のユグが叫んだリヴァイアサンと言うモンスターをスティンガーは聞いた事がある。
本来は海に生息するモンスターで、かつては天界の守護獣だったが、堕天して魔界のモンスターになった怪物だ。
その強さも知っている。
天界の創造主でもあり、スティンガーの生みの親でもある神の一柱が魔王を含めた魔界のモンスターを全て殲滅する為に作られた生物兵器。
本来の生息地は海のはずだが、どうしてダンジョンの二階層で、しかも海とは縁遠い森林に出てくるんだ?
どうやら、ここでは自分達の常識なんて、何一つ通用しないようだった。
スティンガーが放心していると、いつの間にかイーグルとユグがスティンガーを置いて逃げていた。
「オレ達の力量で勝てる相手じゃねぇ!! もっと上の冒険者を呼ばな……ぎゃ?」
イーグルが何かを言ってたような気がするが、そのイーグルがリヴァイアサンの巨大な顎の餌食にされていた。
下半身を喰われて、残った上半身だけでイーグルはゾンビのように地面を這い回っていると、今度はリヴァイアサンではなく、ダンジョンがイーグルを『エサ』と認識したのだろう。
イーグルの上半身が触手のような蔦で、彼を絡み取って、そのまま地面に無理矢理吸収しようとしていた。
バキバキバキッと、嫌な音を響かせながら、イーグルはダンジョンに喰われてしまった。
「く、来るな! 来るんじゃねぇ!! 人間を二人も喰ったんだからオイラだけでも見逃せよ!!」
完全に腰が抜けた盗賊のユグが、短剣を振り回している中、放心していたスティンガーの魂に火が付いた。
「こんの……バケモノどもがぁ!! 人間をムシャムシャ喰ってんじゃねぇ!!」
スティンガーは、イーグルの剣を拾って、スティンガー自らが封印していた剣技を発動した。
「単剣勢法一本目『刺守千』!!」
スティンガーが修行時代に得意としていた最強の突き技。
相手との間合いを一瞬で詰めて、足腰の踏み込みによる力を腕に伝え、剣で相手の喉を突き刺す技……だったのだが、ほんの千分の一秒で、スティンガーはある違和感に気付いた。
(っ!? 上手く、力が出ない?)
スティンガーの剣がリヴァイアサンの頑丈な鱗によって折れたのを見ながら気付いた。
この技を使ってたのは男時代で、女になってから一度も使った事が無かったのだ。
剣が折れると同時に、ユグもリヴァイアサンのエサになってしまった。
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