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イーグル達は全員リヴァイアサンに喰われ、一人だけとなったスティンガーは、拳でリヴァイアサンの体表を殴っていた。
拳が砕けても殴り続けていたが、リヴァイアサンには、何のダメージにもならなかった。
そこまでやって、ようやくスティンガーは思い知らされてしまう。
女の肉体は、男よりも弱く、肉体の構造、特に筋肉の形が全然違うと言う事を。
不慣れな女の肉体で、いきなり神々が作った生物兵器に勝てる訳もなく、スティンガーは狂ったように殴り続けたが、リヴァイアサンは、この哀れで矮小な人間は喰う価値すら無いと判断したのか、尻尾で軽く弾いただけで、スティンガーの脆い肉体は、木々を押し倒しながら、木々に囲まれた湖まで転がされてしまった。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
身体中が痛い、女の体が、こんなにも男と違うとは想像してなかった。
こんな絶望的な状況下の中で、スティンガーは今とは関係のない事を考えていた。
(あー、女がこんなに、か弱い存在だったなんて知らなかった。男時代にもっと大切に女を扱ってやれば良かったなぁ)
ぼんやりとした意識の中、目の前に近付いてくるリヴァイアサンを見ながら思った。
(オレも喰われちまうのかなぁ? やだなぁ、まだ死にたくないなぁ)
どうせ死ぬ事が確定してるのならばと、スティンガーは、すぐ隣にある湖を見て思った。
(……リヴァイアサンのエサになりたく無いし、ダンジョンのエサにもなりたく無い……どうせ死ぬなら、こう言う死に方をするか)
そう思ったと同時に、スティンガーは残された力を振り絞って、自らの体を湖の中へと入れて、そのまま湖に吸い込まれてしまった。
--この世界はクソだと思った。
勝手に生み出しやがって、勝手に使命を押し付けやがって、それら全てに文句を言ったら「お前は神々の面汚しだ!!」とか言われて怒られた上に非力な女にされてしまった。
あーあ、生まれてから一度も良い事無かったなぁ。
何の為に生まれて来たんだろ?
あぁ、何もかも考えるのが面倒くさい。
光が遠ざかって行く。スティンガーは暗闇の底へと落ちて行く。
もう二度と、あの光を見る事はできないのだろう。このまま闇に身を委ねるのも悪くは無い。
光よりも、闇の方が心地が良い。
ここまで穏やかになれたのは初めてだった。
スティンガーは、沈み続けるのを受け入れて、青い瞳を閉じた瞬間だった。
--目を開けろ! 君の物語は、まだ何も始まっていないぞ!!
誰かの声が聞こえる。でも、もう良い、休ませてほしい。
--こんな所で幕を閉じちゃダメだ!! 君の物語は、誰かの為じゃない、自分の為にページを捲るべきだ!! 自分の為に生きろ! ボクは、まだ君の物語を読んでない!!
「がはっ!! げほっ、げほっ」
スティンガーが口から水を吐き出すと、いつの間にか洞窟のような空間に居て、洞窟なのに綺麗な花畑が広がっている空間に居た。
「はぁ、はぁ、オレ、生きてる? なんで?」
ヨロヨロと立ち上がるスティンガーの眼前に映ったのは、洞窟なのに光で照らされた花畑の中央に突き刺さっている一本の剣だった。
その剣は奇妙な形をしていた。
長剣なのは間違い無いが、剣の横である鎬の部分に空間があって、まるで片刃の反りがある二本の剣を合体させて、強引に両刃剣にしたかのような奇怪な剣だった。
傷だらけのスティンガーは、足を引きずりながら、その剣の柄を握った。
すると、突如として、剣は光に包まれたかと思うと、剣が一人の少年の姿になった。
ツンツンとした赤いショートヘアで、黒い外套に身を包んだ15歳ぐらいの小柄な少年が姿を現した。
「ボクを見つけてくれて、ありがとう! 君となら、どんな理不尽、どんな苦難にも打ち勝てる気がするよ!」
「は? え?」
剣が人間の子供になった。現状が理解できないでいると、洞窟の天井を突き破って、先程のリヴァイアサンが姿を現した。
「さぁ、君の物語をボクにも見せてくれ! ボクの名前は魔剣『ブラムリット』! 君のような強い心の持ち主を何百年も一人で待ってたんだ!」
「……」
魔剣ブラムリットと名乗った少年の手を握りながら、スティンガーは弱々しく言った。
「オレは……オレは……強くない。目の前のリヴァイアサンに傷一つ付けられなかっただけじゃない、オレは、全てから逃げた卑怯者なんだ」
しかし、そんな弱気のスティンガーなぞ気にする事もなく、ブラムリットは、スティンガーの手を強く握って答えた。
「ならば、ボクを信じろ! 目の前の障害を切り開く力を持っている! ボクだけじゃない、君にもある! さぁ、立ち上がれ!!」
そこまで言うと、ブラムリットは、再び長剣の姿に形を変えた。
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