2人が本棚に入れています
本棚に追加
柔らかい、魔剣ブラムリットの柔らかい唇がスティンガーの唇と重なり、ブラムリットの体温がスティンガーの方へと流れ込んで来る。
突然の出来事に、スティンガーは顔を紅潮させてブラムリットを突き飛ばした。
「バッ!? おま!? 何しやがる!!」
「え? 何って、契約の儀式。君はボクのご主人様になったわけだから、形式上やっただけだけど……ははぁ〜ん」
ブラムリットが、ニヤニヤしながらスティンガーの顔を覗きながら言った。
「照れてる?」
「違うわバーカ!! 男同士でキスとか気色悪いだろ!!」
その言葉を聞いて、ブラムリットは目をパチパチ瞬きさせてからから言い放った。
「??? 君、女の子だよね?」
「肉体は女だが、中身は男だ!!」
「ほぇ? 君、頭とか大丈夫?」
数十分後。
「ふむふむ、かつては男だったけど、今は勇者の力を封印されて非力な女の子にされたと……何それ、ややこしい」
ある程度は回復したスティンガーは体を起こして、自分の身の上話をブラムリットに説明して、何とか理解してもらう事に成功した。
「分かったろ? お前は魔剣だが、見た目は人間の男みたいだし、つまり、お前はさっき男同士でキスしたわけだ。ここまで話したら、自分が何をしたか分かるだろ?」
ブラムリットが腕を組んで頭を悩ませていると、パッと笑顔になって答えた。
「うん! 全然アリアリのアリ! むしろ興奮してきた!」
「キモッ!!」
スティンガーにドン引きされながら、ブラムリットは、お尻に付いた花びらを、はたき落としながら立ち上がって、スティンガーの手を掴んでスティンガーを立ち上がらせた。
「うわーうわーうわー、ボクの新しいご主人様最高すぎるよぉ。どうやって心まで女の子に改造してあげようかなぁ?」
「怖い!! てか、まず気になってたが、お前のどこが魔剣なわけ?」
「ん? こうやって人間の姿になって、お喋りできる事とか? あ、他にも機能は充実してるけど、君の女の子ポイントが加算されるとボクに秘められた機能が一つずつ解放されます」
「何その嫌なポイント制度!?」
漫才みたいな、やり取りをしてる内に、ブラムリットは、かつてリヴァイアサンだった財宝に向かって指を刺してから言った。
「さ、まずはこの財宝を袋か何かに詰めて地上に出よ? ここはダンジョンだからね。リヴァイアサンみたいなモンスターと連戦とか嫌でしょ? だから早く地上に出ようよ」
数時間後。
「あー! こんなにも肉体労働したの久しぶりすぎて身体中痛いわ!!」
財宝を詰める袋が無かったので、スティンガーは灰色のロングコートを袋代わりに使い、ブラムリットは黒い外套を袋にして、二人は地上に脱出した。
外はすでに暗くなっていて、夜空には満天の星空が広がっていた。
すると、ブラムリットは興奮してウサギのようにピョンピョン飛び跳ねながら言った。
「すっごーい! 久しぶりの夜空だ! また拝める日が来るなんて夢にも思わなかったよ!!」
ブラムリットは元気百倍だが、スティンガーは今日だけで、ダンジョンで恐ろしい目に遭ったばかりであり、とても喜べる気分にはなれなかった。
「もーやだ、宿に帰る」
「あ、じゃあ宿とやらに戻ったらチューの続きする? ボクはいくらでもしてあ・げ・る・よ?」
「本当に気持ち悪いからやめてくれ!!」
この小悪魔のような少年に翻弄されながら辟易するスティンガーではあったが、ブラムリットが急に真剣な眼差しをスティンガーに向けた。
「そうだ。これも契約の続きだけど。君の望みはなんだ?」
「望み?」
「ボクは、君の魂の輝きに魅かれて君の剣になりたいと心から願った。だから聞かせてほしい。君はボクを使って何をして、何を成し遂げたいのか」
望み? 何を成し遂げたい?
それを聞いた瞬間に、スティンガーの脳内で今日のダンジョンでの出来事全てがフラッシュバックして、ある結論に達した。
「オレは……ダンジョンを殺したい」
「ほぅ、なぜ?」
「何もかも間違いだらけだからだ! 目の前で仲間がダンジョンに喰われても冷静な対応をして、それが当たり前になってるのが異常だからだ!」
「他には?」
「ダンジョンビジネスと言う、この国の経済システムを崩壊させるには、ダンジョンと言うモンスターを殺すしかない! だっておかしいだろ!? オレ達が持ってる、この財宝は全てかつては人間だったんだぞ!? それで経済が回るなんて狂いすぎてる!!」
必死に叫ぶスティンガーを観察するような鋭い眼差しのままブラムリットは次の質問をした。
「良いの? 仮にダンジョンを殺せても、君はこの国そのものを敵に回す事になるよ? 勇者の使命を投げ出した君にできるの?」
「できるかできないかじゃねぇ! オレはもう逃げたくないんだよ! 自分からも、現実からも! だから、オレは戦う。だから魔剣ブラムリット、オレに力を貸してくれ!!」
スティンガーはブラムリットに手を差し出し、ブラムリットは、その手を力強く握った。
「君の覚悟、確かに受け取ったよ! 今日からボクは君の剣となり、君が死ぬ瞬間まで共に歩むと誓おう!」
こうして、二人の契約の儀式は完了した。
最初のコメントを投稿しよう!