雷雨(らいう)

1/2
前へ
/9ページ
次へ

雷雨(らいう)

 あれから三年の月日が経つ。  私たち夫婦は、色褪せてしまった。  旦那は交際当初から趣味だった車で、休みの度にドライブへ行き帰ってくるのは翌日の朝方。  元より、彼は楽観的で少々自己中心的考えの人間だ。  私の存在など頭から抜けているのだろう。もしくは、『まぁ、いいか』と軽く考えていたのかもしれない。  彼は一晩中仲間と走り続けて、アパートに帰ると疲れきって屍のように次の日の夕方まで眠る。  その夢の中に私が出ることなどない。  けれど、平日は違った。  仕事の勤務時間が異なるため、一緒に食事こそ取れないが、それなりに少しの会話はする。互いに仕事での出来事や悩み、面白かったことなどを話し、僅かに笑顔が溢れる瞬間だった。  ただ、夫婦と言えど恋愛関係は皆無だ。  彼が流行り病に感染してからというもの、完治した今も部屋は別々でルームメイト状態。  そのせいかだろうか、それともそもそもの価値観の違いか、最近は彼の一言一言が癪に触るようになっていた。 「俺の書類がない。尚が捨てたんじゃないのか」 「尚、これは洗濯しないでくれって言っただろ。ちゃんと人の話を聞いてくれ」 「俺はツナが苦手なのに、何で料理に使うんだ。ちゃんと覚えておいてくれよ」  やたらと目立つ、上から目線。  最初こそ穏便に済ませるために耐えてきたけれど、彼は日に日に付け上がっていく。  そしてある日、私は我慢の限界を迎えた。  その日も彼は、自分の失敗を私に押し付けた。 「なんで俺の買った漬物が、こんな奥に押し込まれてるんだよ。こんなところにあったから、見つからなかったんだろ」 「あなたの探し方でしょ」 「俺はちゃんと探したよ。そもそも冷蔵庫が汚い」  後から思えば、ただそれだけの言葉だった。  でも、それが最後の我慢を壊した決定打。 「あんたがやればいい、私はあんたの家政婦じゃない!大体、休みの度に家を空けるような夫に指図されたくない!その間誰がこの家を守ってると思ってんのよ!」  積もりに積もった不満をぶち当てれば、彼は眉間の皺を濃くして、私の足元を掬う。 「家にいて欲しいならそういえば言い!それに、なんでお前は小出しに文句を言わないで溜めて爆発させるんだ!その都度言ってくれれば、俺だって直すのに」  『どの口が言う』と本気で思った。  小出しにしても、笑って誤魔化し聞いてなどくれない癖に。 「そうやって上手くいかなかったり、自分の立場が危なくなると、いつも私のせいにする。みっともないよ」  彼は目を見開いて、酷く悲しそうに戸惑った表情をした。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加