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雷雨(らいう)
あれから三年の月日が経つ。
私たち夫婦は、色褪せてしまった。
旦那は交際当初から趣味だった車で、休みの度にドライブへ行き帰ってくるのは翌日の朝方。
元より、彼は楽観的で少々自己中心的考えの人間だ。
私の存在など頭から抜けているのだろう。もしくは、『まぁ、いいか』と軽く考えていたのかもしれない。
彼は一晩中仲間と走り続けて、アパートに帰ると疲れきって屍のように次の日の夕方まで眠る。
その夢の中に私が出ることなどない。
けれど、平日は違った。
仕事の勤務時間が異なるため、一緒に食事こそ取れないが、それなりに少しの会話はする。互いに仕事での出来事や悩み、面白かったことなどを話し、僅かに笑顔が溢れる瞬間だった。
ただ、夫婦と言えど恋愛関係は皆無だ。
彼が流行り病に感染してからというもの、完治した今も部屋は別々でルームメイト状態。
そのせいかだろうか、それともそもそもの価値観の違いか、最近は彼の一言一言が癪に触るようになっていた。
「俺の書類がない。尚が捨てたんじゃないのか」
「尚、これは洗濯しないでくれって言っただろ。ちゃんと人の話を聞いてくれ」
「俺はツナが苦手なのに、何で料理に使うんだ。ちゃんと覚えておいてくれよ」
やたらと目立つ、上から目線。
最初こそ穏便に済ませるために耐えてきたけれど、彼は日に日に付け上がっていく。
そしてある日、私は我慢の限界を迎えた。
その日も彼は、自分の失敗を私に押し付けた。
「なんで俺の買った漬物が、こんな奥に押し込まれてるんだよ。こんなところにあったから、見つからなかったんだろ」
「あなたの探し方でしょ」
「俺はちゃんと探したよ。そもそも冷蔵庫が汚い」
後から思えば、ただそれだけの言葉だった。
でも、それが最後の我慢を壊した決定打。
「あんたがやればいい、私はあんたの家政婦じゃない!大体、休みの度に家を空けるような夫に指図されたくない!その間誰がこの家を守ってると思ってんのよ!」
積もりに積もった不満をぶち当てれば、彼は眉間の皺を濃くして、私の足元を掬う。
「家にいて欲しいならそういえば言い!それに、なんでお前は小出しに文句を言わないで溜めて爆発させるんだ!その都度言ってくれれば、俺だって直すのに」
『どの口が言う』と本気で思った。
小出しにしても、笑って誤魔化し聞いてなどくれない癖に。
「そうやって上手くいかなかったり、自分の立場が危なくなると、いつも私のせいにする。みっともないよ」
彼は目を見開いて、酷く悲しそうに戸惑った表情をした。
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