雷雨(らいう)

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 それからの日々に、私たちの間で行われるやり取りは、辛うじて同居人としての挨拶と業務連絡だけとなった。    潤滑油の足りていない金属のようなギスギスとした空気が、互いを取り巻いていて嫌悪感はあるのに、話さなくても良いことが心地よさも感じさせた。  その時思ってしまった。 『私はもう、(かつ)てのように彼を愛せない』  それが本心だった。  その後の私の行動力は素晴らしかった。  職場の休憩時間を使って離婚届を取りに行き、帰宅後は彼が帰る前に記入し判子を押した。  そして自宅の机に置かれたそれを見て、旦那は面を喰らって動けなくなっていた。   「ごめんなさい、もうあなたとはやっていけない」  口にしたら、今まで堪え忍んできた想いが雫となり溢れる。 「え、いやいや、なんで尚が泣くの?泣きたいのは俺だよ。悪かったから、離婚はやめて」 「…お金が払えないから?」 「そ、それもそうだけど、でも、それ以上に尚が大事で傍にいたいんだ」  一緒に泣き出す彼が必死に弁明をするけれど、全て嘘に聞こえてしまう。私の耳がおかしいのか、それとも心が麻痺しているのか。 「じゃぁ、なんで夜中にばっかり帰ってくるの?私が寂しいとか思わなかったの?」 「だって、尚は結婚して俺の奥さんだから、いつでも一緒にいられるし」 「そういうところ。天秤のかけ方が間違ってんの。それは全部あなたの考えじゃん。友達の方が大事なら、私と別れて自由になればいいよ」 「尚、待っ」  彼の言葉を聞かず、私は部屋に閉じ籠った。  彼は天の邪鬼で、人に言われると反対のことをしたがる癖がある。だから、長期戦になるけれどこれ以上は言わずに、ただひたすら音を上げて判子を押すのを待つつもりだ。  そんな計画の傍らで、涙が止まらなかった。   「…私は一体、どごで間違えたんだろう」  そんな後悔が、心の底から沸き上がり悔しさに苛まれていた。
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