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七つ下がり雨
激しく降る雨の音で目が覚めた。
寝室を出てリビングに向かうと、肩を落とし離婚届と向き合う彼の後ろ姿がある。
私は思わず小走りでその背中に抱きついた。
「え!何々?」
彼の驚く声が響く。
「…生きててくれて良かった」
「何の話?俺のこと死ぬほど嫌だった?」
困惑しながらも受け止めて抱き締める彼の胸に、頬を寄せる。心臓の音が心地よく響き、温もりが安心と涙を誘った。
「…隆二、もう一回やり直そう」
「…いいの?」
「うん。でも、ラストチャンスだから」
「も、もちろん!俺、お前のことちゃんと大事にするから!」
目に涙を浮かべながら、彼は何度となく力説した。
それが嘘じゃないと、今は信じられる。
「でも尚、この短時間で何があったの?」
「…夢を見た」
「夢?珍しいね」
クスクスと小さく笑う彼が、その内容を聞きたがる。
私は目の前に置いたままの用紙を裏返し、細かい内容が書かれているその面に油性ペンで絵を描いた。
私が見た内容をコマ撮りにしてイラストにすれば、彼は顔をしかめてめそめそと泣いている。
「俺、夢の中の尚にまで悲しい想いさせてたんだね。本当にごめん」
「何に対して謝ってんの」
今度は私が笑う。
次第に私たちはたくさんの裏紙を持ってきて、イラストを描いた。
「いつか行くとしたら、俺はここに行きたい」
「…これは、…マーライオン?」
「正解!ドバイに行ってみたい」
「高そうな旅行だね。じゃぁ、私はここ」
「ヤシの木と海とパンケーキってことは、ハワイだ!相変わらず絵が上手だな」
「ありがとう。自然の中でフラダンスを踊ってみたい」
「踊れるの?」
「踊れない。そこで習う」
「いいね、それ」
行きたい国ややりたいことを書き記した紙に隙間がなくなる頃、外は明るくなっていく。
夕方四時過ぎに降りだした雨が、ようやく終わりを告げた。
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