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取り憑かれた遺言〜始まり〜
はるか古より
この世には人間以外に住まう種族が数多く存在した。
「御告げが出ましたぞっ、族長殿」
満月の夜になると一晩中繰り返すあやつらの暴挙──それを止める為に何か良い策はないかと呼んだ祈祷師は小一時間ほど社に籠った後、族長にこう告げてきた。
「奴らを刺激してはなりませぬっ。
争っていても何の解決になどなりません。──祈祷によればあやつらと協定を結ぶべきとの御告げが出ております」
「協定?……協定とはどのようにすべきか?」
「はい。誠に申し上げにくいことなのですが、あなた様……族長殿の身内から若いおなごをあやつらに差し出せとのこと。それもこの先、孫子の代までずっと」
祈祷師の言葉に族長は立ち上がり憤慨した。
「何を言うっ!
身内のおなごとは私の娘一人しかおらんではないかっ!! 娘をあんな化け物に差し出せと申すのか!?」
声を荒げる族長に相反し、祈祷師は落ち着いた口調で更に言葉を続けてくる。
「御気持ちはわかりますが、このままですとこの村どころか国全体を巻き込む戦争に発展しかねませんぞ。
民のことを想うのであれば、どうかあやつらと協定を──」
────────……
そのような生け贄の風習がいつの時代より始まったのかはわからない。
ただ私達の祖先は苦肉の策として、その風習を現在まで受け続けてきたのである。
それはまるで、
長きに渡り取り憑かれた遺言のように──
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