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ショックだった──
目の前で見せつけられたんだ。
何も考えられなくなってしまうのは当たり前じゃないか。
「……兄貴は一体何を考えているんだ」
現今、綿世家の血を引く女性は二人しかいない、既に亡くなってしまった美和さんと十和ちゃんの二人。
人ならざる者である人狼族の雪平家と人間である綿世家は、遥か昔から婚姻関係を結ぶことで互いの家は大きく発展し続け今の地位を築いてきたのだ。
そして、その長きに渡り続いてきた習わしは厳しく遵守されていかなければならなかった。
それは互いの長子・次子同士で婚姻し跡継ぎを産み育てること。
その習わしが破られた時、俺達人狼一族はその瞬間灰と化し一瞬でこの世から消えてしまう──存在自体全てがなくなってしまうのだ。
──と言ってもその時代々々、必ず綿世と婚姻して跡継ぎを産まなければならないものでもない、いなくとも俺達がすぐ消えてなくなるわけではないのだ。
最後に綿世の女性と事を成したのは約二百年前──それから綿世の家に産まれるのは男児のみだけだった。
そして、二百年ぶりにやっと産まれてきた女児が美和さんと十和ちゃんである。
俺達人狼一族が最後に綿世の女性を娶って事を成した後、その先ずっと習わしが行われなかった場合……消えてなくなってしまうまでのリミットは約百五十年程と言われている。
既にもう二百年── 何とか持ち堪えてきたがこれ以上はたぶん難しい。
婚姻関係が結べなかった間も雪平家の力は徐々に衰退していき、今回綿世家の女性と婚姻し跡継ぎを産んでもらわなければ、人狼族は一瞬で灰と化してしまうだろう。
それは長子と次子が結婚した場合も同様、同士でなければ意味がないと言われている。
(……だから兄貴と十和ちゃんが婚姻関係を結んでもし跡継ぎを産んだとしても、一族にとっては何の足しにもならない。
そりゃ交われば一時的に生き永らえることができるかもしれないが、この先また綿世家に女児が産まれるとも限らないんだ。そこまで雪平が持つわけがない、全滅してしまう運命のみ……)
やはり俺が十和ちゃんと結婚して跡継ぎをつくらなければ──
「…そうじゃなきゃ、桜子も消えていなくなっちゃうんだ……」
ソファーの背もたれに全体重をかけ天井を見上げた俺は深い溜め息を一つ吐く──
「本当に、あなたのお兄様には困ったものですね」
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