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次の日の朝。止水は朝食をとる前に、自分の部屋でしわしわの紙を見つめる。東温たちと再会できてから、くしゃくしゃに丸めたメモをゴミ箱から取り出していた。そこには東温と夏休みにしたいことが書かれてある。時空ずい道が閉ざされると聞いた時はあきらめていたけれど、どれもできるだろう。止水はこれからの夏を想像するだけで、楽しい気持ちとなった。
正午を少し過ぎた頃。止水はいつものように店の二階で東温たちと会う。
「東温、明日にでも海に行かない?」
これは止水なりのデートのお誘いだ。ただ、東温は止水が純粋に海に行きたいだけと思っているようで、彼女の乙女心に気がついていない。
人はだれしも人生にいちどくらいは特別な出会いを経験するだろう。止水の場合は東温だった。止水は東温の顔を見つめながら、彼に告白はまだしたくないかな、と思う。少なくとも夏休みのあいだはこの距離感でいたい、と。あやかしと人間の時空をこえた恋愛物語は、今後も続く。
(了)
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