第5話

1/2
前へ
/32ページ
次へ

第5話

 また、来てしまった。  (まこと)は同僚の梶山(かじやま)には告げずに、一人でホストクラブが入っている雑居ビルの前に立っていた。男に貢ぎたいだとか、同性に話を聞いてほしいだとか、そんなことを思ったわけではない。どうにも気になり、仕事中もずっと心に引っかかっていたことがあるのだ。  和泉(いずみ)(しゅう)の、あの眼鏡を外した顔。憂いと諦観が色濃く残る、青白い顔。周のその顔が、どうにもホストの天音(あまね)に似ているように見えたのだ。確証も、確信もない。きっと自分以外の人間が見たら、周と天音を見比べてみても似ていないと言うだろう。  けれど、誠の中には確信とは呼べないものの、なにかの予感めいたものがあった。思い返せば、天音と周の声はよく似ている気がする。背丈も、透けるように白い肌も、宵闇を写し取ったような黒い瞳も。  誠は辺りを見回してから、そうっと雑居ビルへと入っていった。階段を上ると、すぐさま黒く、重厚な扉が出迎えてくれる。金色で装飾されたドアノブを引くと、人のひしめき合う雑音と、まばゆいほどの光が誠を包み込んだ。  受付に立っていた青年がすぐさま誠に気づき、声をかけてくる。男性客の来店自体が珍しいのか、受付の青年は誠の顔を覚えていたらしい。指名するホストの名を聞かれ、誠はしばし迷ってから天音の名前を出した。 「すみません、天音はいま他の指名が入っていまして……」  青年が申し訳なさそうな顔をして言う。他のホストなら空いているという彼に任せ、誠は「誰でもいい」と返事をするとテーブルに案内してもらった。梶山と一緒に来た時は初回料金で安く呑めたが、二度目の今回からはサービス料や席料などをすべて払うことになる。長居するつもりはなかったが、ここまで来たからにはせめて天音の姿を一目見てから帰りたいとまで思っていた。  テーブルに案内してくれた受付の青年が去ると、入れ替わりに黒いワイシャツ姿の青年が誠の隣に腰を下ろした。天音ほどの華はないが、顔立ちは整っており、彼もまた人気のホストなのだろうと想像できる。 「金曜日に天音を指名するなんて無理っすよ、お兄さん」  彼は席に着くなり、一番にそう言った。自分よりも五歳ほど若く見える彼は、誠になにかアルコールを頼むよう言いながら、言葉を続けた。 「あいつ、週末しか出勤しないくせに売上はNo.1なんすよね」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加