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プロローグ
黒と白、そして差し色の赤。洗練された店内で、男の美しい横顔がきらびやかな照明に照らされている。
信じられなかった。これがあの、いつもなにを考えているのかよくわからない陰鬱な顔をした部下と同一人物だって?
男はこちらを向くと、嘲るような笑みを見せた。
「どうします? 先輩」
なにが先輩だよ。会社では一度もそんなふうに呼んだことなどなかったくせに。
アルコールで上気した頬をゆるませて、男が手を伸ばす。肩に置かれた手を振り払うこともできず、まっすぐに男を見つめ返す。
「先輩がもうすこし頑張ってくれたら、今夜のラストソングは僕のものになるんですけど」
こんなふうに煽られて、女は彼に金を使うのだろう。首を振り、肩に置かれたひんやりとした手を振り払った。
「お前に貢ぐつもりはない」
「僕に会いにここまで来たのに?」
くつくつと、喉の奥で笑う声がした。
「先輩が好きなのはどっちですか? ホストとして生きる天音? それとも……冴えない営業社員の和泉周?」
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