ネタミソナチネ

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 「絶対に秘密だよ?」 私は読み切りが掲載された別冊漫画誌を百合菜にだけ見せた。原案だけが私で作画は漫画家の先生が描いてくれた。 「すごい!絶対内緒にする。だってこれで10万でしょ。バイト禁止だから学校バレしたら超不味い」 「そう、バレたら色々面倒。百合菜だけに教えたから言わないでね」 「もちろん。流花は卒業したら漫画の原作家になるの?」 「まさか…。もっと上手い人が幾らでもいるから。大人しく受験勉強する」 「なんかもったいないよ。せっかくデビュー出来たのに」 「実はさ…、次の物語が書けない。勢いで初めて書いた文章で当てたけど、次を書こうとしても何も浮かばない。だからサボってた分しっかり勉強することにした」 「難しいんだね、こういう世界って。でもデビューしてそのままヒットを飛ばしたら流花が遠くに行っちゃうから、ちょっと安心した」 「華麗なる一発屋は下がりまくった成績を戻すのに必死なの、今は」 「流花ならすぐ成績戻すって、一緒にU大行こうよ」 「国立は三教科で受けられないから厳しいけど、百合菜と一緒にU大行きたいから頑張る」 「志望の学部は違うから良かった、流花と推薦の取り合いしたくない。勝てる自信ないもん」 「いやー、私みたいな変人に推薦は元々無理。百合菜なら教育学部の推薦行けるけど、私は国際教養学部の推薦は絶対無理」 「そんなことないって。夏休みの交換留学を元ネタに、カナダの現地学生との恋愛漫画の原作さらっと書けるんだもん。学校のバイト禁止さえ無かったらこれ自己推薦も行けるのに。もどかしい」 「もし自己推薦枠があっても、この漫画原作の作者は私ですって言いたくない。落ちても受かっても恥ずかしいから」 「面白いよ、この漫画。切ないラストも最高。でさ、この現地のイケメンとは結局どうなったの?」 「ん?とっくに疎遠で音信不通。交換留学のときに話が合っただけ。それを思いっきり膨らませて過剰に緩急をつけただけ」 「え?じゃリアルな話は殆んどなし?」 「そうだよ。本当だと思える上手い嘘がつけるのが原作者かな?」 「うわぁ騙された、物の見事に。交換留学の後にカナダからイケメンが会いに来たこの漫画。実話だと信じかけたよ」 「ま、現実はそんなに甘くない。こうだったらいいなって願望と、それでもたぶん遠距離は失恋するよなって現実を混ぜてみた」 「コラ画像を作るノリで漫画原作書いてる、流花の才能はパナイね」 「才能じゃないって。ちょっとイケメンだからって調子に乗ってた元彼への復讐。私を怒らせたらネタにしてやるって勢い」 「怖っ。流花を怒らせるとネタにされちゃう。流花、私に怒ってないよね?」 「怒ってないよ」 「購買部のカレーパンが残り一個だったから食べちゃったけど怒らない?」 「やっぱり怒る、半分くれたっていいじゃん。この前メロンパン残り一個だったときに半分あげたのに百合菜の食いしん坊!」 「お願い許して。ネタにだけはしないで」 「しないよ。というか、肖像権や人格権の問題で勝手に人をモデルに出来ない」 「ん?あのカナダのイケメンは?」 「あれは見た目、年齢、性格、全部いじってある。海を越えて訴えられないように」 「そういう所まで細かくやるんだ。好きなことを仕事にするって大変」 「まあ、好きだから苦にならないけど。次が書けない以上、受験に集中する」  放課後の図書室で百合菜にだけ見せた漫画。親友にだけは教えたかった。それが身の破滅の始まりだとは気がつかなかった。
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