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「結論から言うと賞金を返上すれば退学は免れる。上手くやれよ、なあ」
担任の阿藤先生は呆れ顔。隣には生活指導の真澤先生。
「本来ならばですね、退学処分。ですが…公募方式で受かると思っていなかった。賞金が学校が規定するアルバイトに該当するとは知らなかった。2つの事情から賞金を返上してその証拠を提示すれば退学にはしないと職員会議で決まりました」
真澤先生のあだ名は真四角真澤。あまりに堅苦しい四角四面なおばさんだから。阿藤先生のあだ名は空気な悪役。静かな性格なのに生物の授業で、時々捻った問題を出すから悪役。
座っていた椅子からそっと立ち上がり、私は深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした…」
二人がほっとしたように大きく息を吐いた。その瞬間、大きく一歩後ろに下がる。椅子の背に手を掛けて横に向かって椅子を力一杯投げつけた。八つ当たりされた椅子は、床に転がり壁にぶつかってつんのめるように止まった。
不意打ちを食らって阿藤は間抜け面。真四角真澤は顔面蒼白で震えていた。
「うるせえ、退学上等!」
通学用のリュックを担いで生活指導室を飛び出した。
(何が賞金返上だよ、人の原稿を舐めんな)
真っ直ぐ家に帰る気も起きない。学校に告げ口したのは一人しかいない、百合菜だ。どうしてこんなことを…思い当たることは…。まさか!?学校内の合唱コンクールのときに百合菜がピアノ伴奏で私が指揮をした。曲は映画の『天使にラブソングを』の挿入歌のゴスペル。
指揮者は観客から見ると後ろ向きで背中を見せるのが普通。だけど普通にこの曲をやっても面白くない。伴奏の百合菜にリズムキープを任せて、私は途中からくるっと振り返り、百合菜のリズムキープに合わせてノリノリでみんなと一緒に踊りながら歌っていた。指揮者が指揮の役目を果たさず、伴奏の百合菜が指揮を兼ねる形。クラスのみんなは楽しんでくれたけど、百合菜は合唱コンが終わった後に私に言った。
「いつも美味しい所を持ってくよね、流花は」
百合菜は笑っていたけど、その目はほんの少しだけ怒っていた。合唱コンはなんと特別賞が取れた。クラス全員がお祭り騒ぎだったのに、百合菜は冷めた態度を崩さなかった。
次の日からは怒る訳でも避ける訳でもなく、仲良くしていたから忘れていた。ゴスペルの変則的なリズムでピアノ伴奏をするだけでも大変なのに、リズムキープまで任された百合菜はあのとき謝って欲しかったのかもしれない。私は最寄り駅のスタバに立ち寄って百合菜にLINEを送る。
『合唱コンのことで怒ってるから漫画原作のことを先生に話したの?』
しばらく待っても既読が付かない。諦めかけた頃に返事が返ってきた。
『器用に美味しい所を自分の物にするから、流花なんて嫌い。秘密なら人に喋る方が悪い』
百合菜は喧嘩腰を隠さない。私も頭に血が上る。怒ってるなら怒ってる、負担が多いからリズムキープまではやりたくないとなんで言えないのか。
『言いたいことをその場で言わずに、こんなやり方で復讐する方がもっと悪どい』
今度は間髪置かずに返事が来る。
『クラスのみんなを味方につけて、もう指揮の途中で流花が歌い出す空気が出来てたじゃん。リズムキープまでやりたくないって言えないようにして。狡いよ』
みんなが賛成してくれたから調子に乗ったのは事実だけど、下手すれば退学になるような話を先生に告げ口するなんて。
『狡いのはお互い様、百合菜の望み通り退学だから。顔見なくて済むからせいせいする!』
私はスマホをコートのポケットにしまってスタバを出て、自転車をダラダラと漕ぐ。重い足取りで家に向かう。さっきからLINEの合間に両親から電話の着信が鳴り止まない。学校から退学処分の連絡が行ったんだろう。もうどうにでもなれ。私は家の門扉を開けて自転車を入れた。
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