5章 報告

4/5

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
窓際部署の扉を閉め、急いで社長室に戻る。 会社に泊まることはほぼないが、万が一の時のためにスーツやワイシャツなど一式用意していた。 クローゼットから取り出し、急いで着替えてネクタイを締める。 着替え終わったタイミングで、秘書がやってきた。 「おはようございます」 「あ!お…おはよう」 龍彦の様子がいつもと違うのにすぐ秘書は気づいた。 「社長?髪が…乱れておりますが、大丈夫ですか?」 秘書に突っ込まれ、慌てて手櫛で直した。 「あぁ…大丈夫だ。ちょっと遅刻しそうになって」 苦し紛れに秘書に伝えるが、秘書は何かおかしいなと言った顔をしていた。 秘書の表情に、龍彦は唾を飲んだ。 「こ…こういうこともある。今日の予定は?」 龍彦が言い返すと、秘書は手元のタブレットで予定を確認する。 「本日は12時に株式会社イチゴソーダ様と打ち合わせ兼食事会一件のみです」 「そうか。今日は外に出るのは一件だけなんだな。それもそれで珍しい」 「はい。そうなんです。ですが、明後日水曜日に内密な案件が入っておりまして…」 龍彦は秘書から内密な案件と言われ、沙絵のことだとすぐに察しついた。 「どうして、モスアズのことだと知っている?モスアズの件は俺と池中しか知らないはずだか…」 秘書は少し黙ってから、話を続けた。 「池中さんからお聞きしました。できれば明後日に内密に社長を動かしてほしいと…」 なぜ明後日なのかは分からなかったが、なんとなくではあるが、明後日に大波がやってくるような感じもした。 ジャッカルの中で、秘書と話ができるのは3人の役員を除き、栄策だけだった。 栄策は智則の介護をしていたこともあり、生前から優遇されている部分も多少なりともあった。 「詳細なことは、俺から池中に連絡して確認する。明後日の“案件”までに通常業務は終わらせておくから、調整を頼む」 「かしこまりました。社長?…お体にだけは気を付けて。無理をなさらないように、どうかお願いします」 大きな事案であることを、秘書も知っているかのように、いつも以上に龍彦のことを心配していた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加