25人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
緊迫した状況でも、龍彦は腕時計で時間をチェックした。
2人が間に入った時間は15時前後を指していた。
栄策が伝えてきた時間通りで、モスアズ本社の前は人、人、人だらけ。
どうすることもできず、混乱する沙絵を見て、栄策が傍にいき、龍彦が美佳の前に立った。
「沙絵ちゃん…もう大丈夫よ。智則さんもきっと助けにきてくれてるはずよ。安心して」
「…すみません」
泣きそうになっている沙絵から絞りだされた、精一杯の言葉だった。
龍彦は睨みをきかせながら美佳を見下ろしている。
怒りに満ちた龍彦の威圧に負けたのか、美佳は急に口を閉ざした。
「お前…俺の会社にまで足つけようとしたな…全部調べはついているんだ…」
低くく太い声には、怒りだけでなく、憎しみの感情も込められていた。
「は…は?なんのことか、さっぱり」
体を小刻みに震わせながら、とぼける美佳に、ニヤりとして、
「ほぉ…笑 だったら、どこか部屋借りてじっくり話そうぜ。 真実を見せてやるよ…‼」
智則に頼まれ、龍彦はこの数か月多忙の中で俵家のことを調べ上げた。
「全く…亡くなった会長といい、沙絵さんといい…似たようなことで手間かけせさせんなよ」
龍彦は、背中を見せたまま沙絵に言葉をかけた。
その姿は智則の背中にも見えた。
「龍彦さん…あれ…智則さん…?」
「危ねぇところだったな…だがもう安心しろ」
龍彦の背中に、沙絵は智則の姿が重なって見えたような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!