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「美佳さん落ち着いてください。僕たちはあなたたちを悪者にしたいわけではありません。真実を追及しているだけです。沙絵さんも本当のことを知りたいだけです」
沙絵は、自分が知らない間に会社まで被害に巻き込まれ、自責の念が出てきてしまい、嗚咽しながら泣き出す。
そんな沙絵の背中を栄策は優しく摩った。
「大丈夫よ。みんないるから」
「…はい」
あまりに不安になり、パニックになりそうな沙絵に、栄策は耳打ちをした。
「会長も側にいると思うから、落ち着いて」
龍彦に予告した通り、この場にやってきた智則は、ずっと沙絵についていた。
しかし、沙絵は智則がいることに気づかないでいる。
「なんかあっても、俺たちがいるから心配するな…聞こえてねぇか」
沙絵の横にぴったり寄り添っているが、やはり智則の声は聞こえていなかった。
その間に、龍彦のじわじわとした追い込みは続いた。
「そうですか〜、カレンゴ知りませんか。そうですよね。こちらのカレンゴの登記を見ても分かりませんよね?」
じっくりとカレンゴの登記を見ても、久はあくまでも「知らない」と言い張る。
美佳も「夫は会社なんかやってません」という。
「そもそも、水沼さんの会社に入っているのに、会社までやる必要ないでしょ?何言ってるの?」
「たしかに。だけど、ご主人が出勤した日にカレンゴに数百万ずつお金が流れているなんて…会社の経理も、経営側もおかしいなとなるのが普通だと思うんです」
一瞬この龍彦の言葉で納得し、安心した美佳だが、それもつかの間だった。
「でも、僕は、一度おかしいなと思ったことは、徹底的に調べないと落ち着かない主義でして…そこで、もう少しカレンゴのことを調べてみました」
「…ええ?」
突然ビクッとする久を、栄策と龍彦は見逃さなかった。
「どうしました?」
「そんなにびっくりしなくても…もしかして?黒幕、旦那さんなのかしら?」
久の顔は完全に、落胆していた。
全員の目線が久に向けられ、久はこれ以上、責め込まれるのに耐えられなくなってしまった。
しばらく沈黙が続いた後で、久は、ポツリと美佳に言葉をかけた。
「美佳…もうやめよう。本当のことを話そう」
「ちょっと待ってよ‼本当のことを話したら、私たちがどうなるのか分かっているの?考えてよ‼」
久が事実を全て話そうをするのを必死に止める美佳。
龍彦が相手を追及する時の目は、つららのように冷たく苦痛を感じる人も少なくない。
それに耐え切れず、犯したことを自ら話す人がほとんどだった。
「これまでの生活が全部なくなって、私たちの命がないかもしれないのに…!」
ギャーギャー騒ぎ出す美佳を説得し始める久だが、美佳の耳には全く入っていない。
そして美佳は、突然他人のフリをはじめた。
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