1章 智則との再会

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1章 智則との再会

会社の奥にある窓際部署。 ドアの前には、先に栄策が待っていた。 窓際部署はただでさえ重苦しい場所なのに、夜にくると余計に重たさを感じさせる。 「たつひこちゃん、開けちゃって~♪」 栄策はノリノリで、窓際部署の扉を開けるように催促した。 1度は封印した窓際部署の扉。 鍵穴に鍵を入れ、ゆっくりと扉を開けた。 一歩部屋の中へ入り立ち止まる栄策をよそに、龍彦は内心緊張しながら部屋の奥へ足を進めた。 部屋は当時のまま残されていて、パソコン1台しか置かれておらず、窓が1つしかない狭苦しい場所だ。 夜に入るのは龍彦もはじめてで、懐かしさと不気味さを感じている。 「ここにくるのも何年振りだろう…廃止にして鍵をかけにきた時が最後だから、5年ぶりか…。池中はここに入るのはじめてだったよな?」 龍彦の問いに栄策は、 「はあ?俺はここに毎日いるぞ。お前がくるのが遅いんだろ。どれだけ俺を待たせたんだ」 急に栄策の口調が変わり、振り向くと、表情もなんとなく寂しそうな怒りを覚えたような複雑な感じになっていた。 龍彦には栄策の中に、智則がいるとは到底思っていない。 それを知らずに龍彦は、 「何言ってんだ?どれだけ待たせるって、立った3分しか待たせていないだろ?」 「違う、俺が死んでから5年もこうして話すまで待たせるってどういうことだ」 龍彦は栄策が、全く別人のように突然話し出したので、何が起こっているのか分からずにいた。 「細身、窓際部署、懐かしいよな。会社が始まった頃、取引先の会長をぶん殴って会議室のテーブルに上がって相手の社長にまで掴みかかって…、あの時は本当に大変だったんだぞ?笑」 龍彦はなぜ、自分と智則しか知らないことを栄策が話しているのか不思議に思った。 窓際部署へ入れられた社員の履歴は残らず、出た瞬間に全て削除されてしまうからだ。 「どうしちまったんだよ⁉池中何があったんだよ⁉」 栄策の肩を揺らしながら龍彦が見つめる視線の先には、どこかで見たことあるような強い眼差しがあった。
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