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一口飲むと、智則は龍彦にすぐに話を切り出した。
「池中くんの体を長く借りることはできないから、単刀直入に話す。沙絵に彼氏ができたことは知っているよな?」
「はい、もちろん知っています」
「あの男は、沙絵のモスアズと沙絵の財産を狙っている。相手にどこまで話したか分からないが、もし前の旦那が俺だと知っていれば、ジャッカルの方にも狙いを定めてくるに違いない」
龍彦は、前に“沙絵「会社員で独身なんだけど、いつも帰る時間決まってるみたいで23時くらいには帰っちゃうんだよね~。私が急にお泊りしたいとか、お家遊びにいきたいとかいっても、はぐらかされてダメって言われちゃうし…」”と喋ったことを思いだした。
あれから半年以上経って、沙絵からは何も連絡がないので、心配をしていたところだった。
「分かりました。沙絵さんの交際相手を調査して、彼女に報告します」
「急に出てきて人にお願いごとをするのは、失礼なことなのは重々承知しているが…」
「何言ってるんすか、俺と会長の仲じゃないですか 笑」
本当に会長なのかと不信がっていたが、ようやく緊張の糸が切れ、肩の力が抜けた龍彦は、沙絵の調査し、結果報告も窓際部署を使う提案をした。
「…宜しく頼む。沙絵は今でも大切な妻であることに変わりはない。だが、今は沙絵が本当に幸せになることを願っている」
栄策の…いや、智則の瞳から涙が零れた。
零れた涙は止めどなく溢れ、龍彦はハンカチを貸した。
涙をハンカチで拭うと、
「そろそろ、体を池中くんに返さなくては…」
チェアーから立ち上がり、龍彦に背を向けた。
「待って…待ってくれ‼」
龍彦に呼び止められ、智則は振り向いた。
だが、龍彦は言いたかったことを飲み込み、「なんでもありません」と言った。
再び龍彦に背を向けると、
「また…会おう。そうだ細身、会社、ちゃんとできてるじゃないか。安心している。またな」
「え…?」
言葉を続けようとした龍彦だが、もうそこには智則はいなかった。
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