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第一章 麻布警察署
江戸の街は東京と名を変えた。
国を仕切るのは、幕府ではなく政府になった。
そんな時代を今、俺は生きている。
俺の勤務先。
【麻布警察署】
東京の治安を守る、と言ってもそうそうあのときのように仕事が舞い込んでくるわけでもない。
今日も今日とで何も仕事らしい仕事をせずに帰宅する。
ふと上を見上げれば、桜が舞っていた。月夜によく映える。
「こんな季節なんだ。」
ふ~ん、と思いながら東京の街を歩く。
飲み屋街を通ったときだった。男の肩があたった。
「すいません。」
笑顔で微笑む。これが一番なんだけど…。
「オイ!兄ちゃん!この元新選組隊士に対してヘラヘラ笑いやがってよお!もう少し敬意払ってもいいんじゃねえのか?!」
怒鳴られた。
京の都でもよくあったけど。それに新選組っていつからぶらんど、っぽくなってるんだろうか。
いつもなら酔っ払いは見過ごしてやるけど…。今日は新選組の名前を騙るやつがいる。
俺は笑顔のままで言い放った。
「それを言うならお兄さん。新選組隊士の斎藤一って人も知ってるよね?」
「あったりメエだろうが!?そんな有名人のことくれえな?!貴様俺を馬鹿にしてんのか?!」
行き交う人々がささやき始め、野次馬が見えた。
「バカにしてるのは貴様だろう?」
一息で言い放った。男は青ざめたが、
「お前はとっとと謝れ!この新選組隊士にむかってな!」
「だったらお前が謝れよこの偽隊士。」
声を低くしていってみた。
「そんな事言うならお前はなにもんだ!?」
「麻布警察警部、藤田五郎。本の職業、新選組三番隊組長、斎藤一。」
男は大きく目を見開いてからガタガタと震えだした。それにもかかわらず、懐から刀を取り出し抜き払う。
お酒って怖いよね、なんて命知らずな男に向かってつぶやいてから、俺はそろそろ頭にきていた。
「獲物を抜いたなら…」
刀を振り回し威嚇する男を見下ろした。
「自分が殺られる覚悟まで持ってくれないと。」
そう言うと俺も懐から懐刀を出した。
男から距離を取って周りに怒鳴る。
「離れてください!」
男に向かった。懐刀を鞘のまま腰に当て、近づいた瞬間、刀を抜き払う。
鞘を投げ右手で男の手首を殴った。男の手から刀が落ちるとそのまま首を峰打ちした。
「おお!」
「兄ちゃんかっけえぞ!」
「あの人元新選組ですって。」
「あらまだ生きてたのね。」
「お母さん、僕もああいう人になりたい。」
やっぱり俺を見る目はそうだ。
万人に理解はされない。
でもそれでいいと思ってる。
男を持っていた縄で縛ると、近くの男性に言った。
「この人、警察に渡しておいてくれますか。俺、ちょっと急ぎの用事があって。」
「お、おう!いいぞ!」
気さくな男性は連れの男性たちとともに男を引きずっていった。
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