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「それがさあ、この公園でドラマの撮影があって。で、なんか聖地巡礼みたいに人が山盛り来ちゃって、そしたらこの桜の魅力に気づいちゃった人間がたくさんいたみたいでなあ。そりゃ、俺からすりゃこの美しい桜つーか俺様の魅力が知れ渡るのは嫌な気はしねえけど、こんだけSNSでバズっちまうと多分今年の花見は大渋滞だぜ。今日だって平日なのにちらほら公園に人来てるし、多分ピーク時はすんげえことになると思うんだよなあ」
「は、はあ……」
チェリーの言っていることは半分もわかりませんでしたが、それでも今年はお花見でたくさん人が来て、アリたちが花見をするどころではなさそうだということは理解できました。
アルフはがっかりします。
お花見という儀式は、ただの宴ではありません。
アルフにとっては、とても大切な意味を持つものであったからです。
「……お花見、諦めないといけないのかな」
ぽつりと呟くと、ふよふよとチェリーが目の前に降りてきました。
「俺は、すぐゴミを出したり環境を壊したりする人間より、お前らアリの方が好きだぜ。これは、お前らの為に言ってやってんだがな」
「わかってるよ。チェリーは僕達を心配してくれてるんだよね?でも、僕、どうしてもお花見がしたいんだ」
「そりゃどうしてだい?遊びに行く場所なら、いくらでもあるじゃねえか」
なんと説明すればいいのやら。
アルフは迷った末、こう答えました。
「……僕達、冬の間はずーっと巣穴の中にこもってないといけないんだ。寒すぎると、動けなくなっちゃうから、巣穴をあたたかくしてじっとしているしかないんだよ」
冬眠はしない。
だからこそつらいのです。眠っている間に春が来てしまえば退屈を感じることもありません。しかし、起きている状態で、ひきこもって冬が過ぎ去るのを待つのは本当に退屈なのです。
巣穴の中にはたくさん本を持ち込みましたし、秋までの間に食糧をためこんで外に出かけなくていいようにしてはいます。お母さんや友達が、いろいろなお話を聞かせてくれて、退屈をまぎらわせようとしてくれます。
それでも、やっぱりアルフは外へ行くのが好きなのです。
暖かい春の匂いを感じて、花の蜜を味わって、蝶々やミミズとお喋りをする方がずっとずっと楽しいことなのです。
「春が来るっていうのは、その退屈な冬から解放されること、みんなみんな、春が来るのを本当に待ってたんだ。……ここから冬までの間、僕達はたくさん働かないといけないけれど、同じだけたくさん遊べるんだ。お花見は……春が来て、新しい世界と物語が始まって、それをお祝いする儀式みたいなものなんだよ」
「儀式か」
「うん。しかも、僕は去年はまだ小さくてお花見に参加できなかったから、今年はすごく楽しみにしてたんだ。ねえ、なんとか方法はないものかなあ」
もちろん、アルフだって友達を危険な目に遭わせたくはありません。お花見を楽しむあまり、人間に踏まれて死んでしまうのも絶対に嫌です。
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