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雨の粒が周囲を遮り、二つの色の佇む異なる傘を打つように降り、跳ね返える。
梅の実が青々とさらに大きく育つ頃に降る雨の厚い雲の湿っぽい空気をさらに暗く、重く、締めつける夜を待ち望んでいないが迎えようとしていた。
「別れよう。……今まで楽しかったよ。有難う」
「突然……。なんで……なんて聞いて、訳を教えてくれるの……?」
この日、美緒と別れた。
美緒はなにも悪くない。綺麗で、可愛くて、聡明で、とてもいい子。会話のなかでさりげなくよく「好き」、たまに「愛してる」とまで言ってくれていた。
それでも別れる理由が俺にはあった。俺の問題。美緒のことを…好きだけど、好きとは思えなくなってしまった。もしかしたら、最初からそうだったのかもしれない。
今まで付き合ってきた女の子達もみんな、そうだったのかもしれない。
心の奥底ではとっくに分かっている簡単な答えなのに、そうと認識をしながら発芽を防ぐ為に重いレンガをいくつも積み、なにもないかのように遠ざけて生きてきた。
自分で言うのもなんだけど、モテるから、女の子には不自由したことがない。それぞれ楽しかったよ。皆んないい子だったよ。最後まで。別れるときも、駄々をこねる子は一人もいなかった。
周りに人がいても厭わないほうなのかもしれない。時々あからさまにこっちをジーと見ながら通り過ぎる人がいるけど、気にしたことがない。見たいなら見たらいい。悪いことをしている訳じゃないのだから。
「ごめん。今週も無理、会えない。ちゃんとその分の埋め合わせはするから。寂しい思いをさせてごめん」
そう言いながら、顔を近づけ、美緒のほっぺたをあやすようにさすった。
「またなの? 仕方ないな。なら、余裕ができたら、なんてないよね。無理しないでいいから、いつか泊まりに来てくれる? それとも、行こうかな」
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