act.1

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世間はなんて不公平に出来ているのだろう。 親ガチャと言う言葉が流行っているが、生まれた時から人生が決められているこの世の中は、どう考えても不公平だ。 「総一郎、見たかコレ。年収5000万だって」 ようやく訪れた少ない休憩時間、宛がわれた部屋に戻って来るなりルームメイトの佐伯が、面白おかしく手元にある雑誌をひらつかせた。 紙面いっぱいに載っているのは、老舗の大手企業SOC――正式名称 西園寺カンパニーの若きエース・西園寺 一二三(さいおんじ ひふみ)の輝かしい経歴と、彼の業績を纏めた特集記事。 パッと目を引く華やかな容姿と、すらりとしたスタイル。ブランド物のスーツをさらりと着こなし、爽やかな笑顔を振りまいているイケメンは、モデルか俳優だと言われても遜色ない。 有名大学で経済学を学び、卒業後は自身の父親が経営するSOC入社。入社2年目には営業部初の新規プロジェクトの責任者に抜擢され、斬新なアイディアと攻めた営業戦略で次々と売上を伸ばし、齢26歳にして営業部次期部長候補と目されている。勝ち組街道を爆走中の独身男性だ。 総一郎はそれを一瞥し、 「興味ねぇ」とつぶやきながら、佐伯の持っていた雑誌を取り上げると、そのままポイッと簡易テーブルの上に放り投げた。 「だいたい、そんな爽やかそうな顔してたって、本性はクソみたいな奴に決まってる」 金持ちなんてみんなそうだ。人を見下すことが大好きで、自分の利益のためなら他人を蹴落とすことも厭わない。口先と外見で人を騙して、都合が悪くなれば平気で切り捨てる。 そんな輩を今まで何人も見て来た。 制服のジャケットを脱いでハンガーにかけ、蝶ネクタイを緩めてベッドに腰掛けながらそう言うと、佐伯は呆れたように肩をすくめた。
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