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 錆びてめくれた塗装膜に衝突するすんでのところで止まった蟻は、首を傾げたかと思うと、来た道を戻っていった。  昭和、それとも平成初期か、住宅地の隙間を埋める目的で作られたような公園で、ぼくは待っていた。  公園は低い柵で囲まれていた。それこそ、ぼくのようなある程度背丈がある大人であれば一歩で跨げるほどの低さだろう。しかも、相当の年代物だ。元の色も判別できないほど錆び、ところどころめくれている。  少々湿気を帯びた風が顔を撫でる。  また蟻だ。諦めが悪いのか、それとも覚えが悪いのか、再び大きなの前で、はて、と途方に暮れている。  蟻は踵を返し、先ほどと同じように来た道を戻っていった。重力など気にしない様子で、とぼとぼと柵の裏へと消えた。  ぼくは昔そうしていたように、小さな公園の外周をぐるぐると廻り、待っていた。  近所のおばさんや配達の車が近くを通ったときはうつむいた。そのときにあの蟻を見つけたのだ。  体感時間は一時間、スマホは見ない。  ぼくはまだ待つことにした。  おばさんにも、配達のお兄さんにも悪いことをしたと思っている。思っているが、どうしようもない。  ぼくは現象が止まるのをただ待つことしかできないのだから。ぼく以外が消える瞬間まで、ずっと。
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