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 三人の未来ある若者は、この地球上から完全に消滅した。この謎多き失踪事件について、専門家たちは大いに議論を交わした。  ネット上には与太話のようなものから、なかなか読み応えのあるものまで、実に様々な説が浮上した。ある悪趣味なサイトは、その有象無象から有力説をひとつ決める投票を開始し、もっとも票を集めた説に投票したユーザーから、抽選で五名に一万円相当のギフトカードをプレゼントした。  事件はそれほどセンセーショナルなものだったのだ。内容が現実離れしていたというのが主な原因だろう。  別々の場所にいた同級生が同じ時間に消える。それぞれ、恋人と映画を見ているとき、自室でゲームをしているとき、母親の肩を揉んでいるときに発生した。もしそれが三人一緒に遊んでいたときに起きたのならば、こうも世間を騒がせてはいなかったはずだ。  失踪した彼らの近くにいた人は、みな口を揃えて「最初からそこにいなかったみたいだった」と証言した。ネットでは関係者がグルであるという説が主流となり、テレビの置き物タレントは神隠しという言葉に頼らざるを得なくなった。  当然、学校、とくに三人のクラスでは徹底的に聞き取り調査が行われた。同級生や教師の答えを要約すると、「やんちゃな印象はあったが、誰かから恨みを買われるような人たちではなかった」というものだった。  あのときに「ぼくは彼らからいじめられていました。カツアゲもされました。恨んでいます」と答えていたらどうなっていたのだろう、と今でもたまに考える。  そう考えてしまうのは結局、ぼくに罪の意識が芽生えたからだと思う。  三人を消したのは自分ではないかと妄想し、冗談半分で住み込んでいる父親もどきも消してしまったあの日、ぼくは確かに頭の中でなにかが外れる音を聞いた。
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