第2話

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第2話

「……とはいえ、ここまで内部構造が複雑なダンジョンは久々だな……」  イヴの店で特例依頼の承諾書にサインをしてから早二週間。  アーヴィーは早速例のSS級ダンジョンまで足を運んでいた。入口付近には二名の衛兵が陣取り、侵入者の存在を拒んでいる。だが、イヴが裏ルートを駆使して発行した通行証があれば衛兵の目を欺くことくらいは容易い。  勝手に王家選抜のフリーランサーと勘違いしてくれた衛兵に感謝しつつ、アーヴィーは洞窟型ダンジョンの扉を開けた。ひとまず様子見も兼ねて壁に手をつき、体内を循環する魔素を流していく。死霊術師を生業にしながら魔術師適正も驚異のA判定を叩き出したアーヴィーは、一般的な汎用魔術全般を扱えた。  己の魔素を通じて流れ込むダンジョン内の情報を整理し、今後の方針を決める。懐から魔素のみを探知する専用の魔導具を取り出すと一際強い反応を示すエリアへ足を向けた。 (とりあえず、魔素の反応が強力なところから一つずつしらみ潰しに当たってみるしかないか)  樹海の中心にある人を惑わすことに特化したダンジョンや、そもそも攻略不可能とされる水底ダンジョンに比べれば、比較的単調な造りとも言える洞窟型ダンジョン。にもかかわらず数多のギルドや冒険者パーティーを苦しめ続けているのがこの広大なフィールドである。 (それにしても、ここは広すぎる。全エリアを回るのに最低四日か五日は必要だな)  飛び込みの依頼だったため、長期戦の備えなどはまるで出来ていない。アーヴィーは手持ちの装備品を思い返してため息をついた。 (最悪、本格的な攻略は次回以降に回して今回は下見程度にしておくべきか……? 無理な攻略は死霊術師(俺ら)の仕事じゃねぇし……)  A級より高位のダンジョンを攻略する際には、下見、内部構造の把握、モンスターの討伐、ボス戦などを段階ごとに分けて行うのが定石だ。そうすることによってそれぞれのリスクを低減し、必要最低限の犠牲で済ませる狙いがある。 (まずはモンスターの小手調べから……)  と、アーヴィーが一つ目の扉を開けた瞬間それを待ち構えていたかのように黒い塊が落下してきた。全長は凡そ一メートルほど。光源の乏しい洞窟型ダンジョンではモンスターの特定までは出来ない。 「(フラッシュ)!」  咄嗟の判断でアーヴィーが選んだのは低級の閃光魔術。集約した魔素を内側から破壊し一時的に光量を増幅するだけの汎用魔術だ。だが刹那の輝きは寸分の狂いもなく、影の正体を暴き出す。 「……モデル・スパイダーか。飛び道具持ちは厄介だな」  蜘蛛型のモンスターは比較的討伐難易度の低い魔物だが、同時に新規パーティーが苦戦しやすい魔物でもある。動きを封じる糸を自在に操り、毒を持つものも少なくないモデル・スパイダーは、交戦経験の浅い初心者パーティーにとって十分な脅威となり得るのだ。とはいえ、それはあくまでも初心者に限った時の話。  アーヴィーは腰のホルスターに眠る鉄の感触を意識して駆け出した。閃光魔術の効果が薄れた今も死霊術師たるアーヴィーの瞳は魔物の姿を捉えている。 「爆風(ブラスト)」  目眩まし代わりに放たれた高粘度の糸を一節詠唱で吹き飛ばし、アーヴィーは再び指先に魔素を集約させた。 「炸裂(エクスプロード)」  続けて極限まで切り詰めた攻撃呪文(アサルトスペル)。ほぼ時を同じくして拳銃をホルスターから抜きハンマーを起こす。より心臓に近い左腕は魔術の行使に適した腕。逆に利き手の右腕には扱い慣れた45口径のオートマチック拳銃。 「束縛(シャックル)」  拘束系魔術の一節詠唱で動きを止め、もがくモデル・スパイダーの頭胸部に計七発の銃弾を叩き込んだ。ほとんどの脚を破壊されたモンスターは石畳の床を無様にのたうち回る。アーヴィーは拘束魔術を維持しつつ空になったマガジンを床に捨て、新しいマガジンを装填した。  スライドを少し後ろに引きチェンバーに初弾を供給するとモンスターの腹部に向けて発砲する。 「貫通(ペネトレイト)」  同時に攻撃呪文(アサルトスペル)を併用し、身体内部の核を貫通。 「消滅(ヴァニッシュ)」  空薬莢が床を叩く音を聞きながら、アーヴィーは決着の呪文を紡ぎ出した。
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