ありあまるほどの、幸せを

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「それはどうも。それより、あなたとダンスをしたいと願っているご令嬢方が数えきれないほどいるようだ。心配しなくても僕とて王妃の命令に逆らってここから逃げるほど豪胆にはなれないから、どうぞダンスに行ってくれ」  もう何もかもが面倒くさくなって、アシェルはルイの言葉のままに丁寧に接することを止めた。それで無礼だと思われても知るものか、と思考を放棄する。そうすると次は近づきこそしないものの突き刺さるように向けられる視線が煩わしく感じられて、それを退けるべくルイを促した。向けられる視線の大半はルイへの羨望と熱、そしてルイの隣にいるアシェルへの嫉妬だ。ならばアシェルに付き合って壁の花になっているルイが中央へ向かえば、こぞって彼からダンスを申し込まれるためにご令嬢方が群がるだろう。そうすればアシェルに向けられていた視線など無くなるはずだ。後はひっそりと庭にでも出て時間を潰せば良い。だというのにルイはニコニコと微笑んだまま動こうとしない。 「どうしてあなたとの婚姻を許された喜びの日に、あなたを放って見も知らぬ令嬢と踊らなければならないのでしょう。どうしてもダンスを、とおっしゃるならそれこそあなたを抱き上げて中央で踊りましょうか」 「絶対にやめてくれ」  そんな好奇の目を向けられるだけの晒し者になど絶対になりたくはない。本来なら参加することすら許されぬ舞踏会に参加しているだけでも分不相応で居心地が悪いというのに、そのようなことをされては心臓が止まってしまいそうだ。
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