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侍女が淹れた香り高い紅茶をひと口飲んでカチャリとソーサーに戻した王妃は、一通の美しい手紙を手に取った。己宛ではあるものの完全なる私信とわかるそれを開き、一通り読み終えると小さく息をつく。
懐かしい筆跡だ。かつての力強さは無くなり、ところどころ震えている文字ではあったが、それでも懐かしさが込み上げる。それだけならば幼き頃の、ありし日々を思い出し郷愁を覚えるだけで済んだのだろうが、内容が内容なだけに王妃としては頭痛が止まらない。思わず指で眉間を押さえれば、長く王妃に仕えている侍女たちが気づかわしげに視線を向けてくる。そんな彼女たちに大丈夫だと言って、手紙を持つと部屋を出る。向かう先は偉大な王であると同時に、王妃が唯一頼り甘えることのできる夫のもとだ。
「入りますわよ」
カチャリと扉を開けば、夫は持っていた書類を机に置き、ゆったりと王妃に甘い視線を向けた。
「おや、ここに来るなんて珍しいね。どうしたんだい?」
机に肘をついて指を組んだ夫に、王妃はとびっきり美しい笑みを浮かべおねだりをするのだ。
「ねぇ、ラージェン。お願いがありますの」
愛しい妻のおねだりに、偉大なる王――ラージェンは意地の悪い笑みを浮かべた。
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