ありあまるほどの、幸せを

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「アシェル、何をそんなに慌てているんだい。そんなことをしたらお前だけが悪者になるだろう?」 「そうですわ、お兄さま。城を使うのが駄目なら他の方法を考えれば良いだけで、何もそう結論を焦らずとも」 「慌てても焦ってもない。確かに普通は顔合わせをするものかもしれないけど、この結婚は――」  グワングワンとフィアナたちの声が揺れて聞こえ、心臓が早鐘を打つ。痛みを訴える頭で必死に一番良い道を考えたというのに、こうすればアシェルは冷たい目でみられるかもしれないが、そんなことはボンクラだの平凡だのと常から言われ続けているのだから大した問題ではない。なのにどうして目の前の二人はわかってくれないのだと子供のような癇癪を起しそうになった時、コン、コン、コンと小さなノックの音が響いた。思わず、全員が口をつぐんで扉の方へ視線を向ける。 「失礼するよ。兄妹水入らずの時にすまないね」  侍従が開いた扉からゆっくりと姿を現したのはフィアナの夫であり、この国の王であるラージェンと、隊服を纏ったルイだった。
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