ありあまるほどの、幸せを

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「今日はスープの気分ではないのですね。なら、こちらではどうでしょう?」  懐から小さな包みを取り出したルイは、アシェルが何を言う間もなく包みを剥がしてそれをアシェルの唇にフニ、と付けた。急なことに目を見開いたアシェルであったが、口に付いたものを避けるのも憚られて、胸の内で小さくため息をつくと唇を開き、それを含んだ。 「……チョコレート?」  舌の上に広がるそれはアシェルが好むミルクがたっぷりと交ぜられたチョコレートだった。歯をたてれば中からトロリとした蜜のようなものが溢れ、その甘さに荒れ狂っていた感情が鎮まっていくのを感じる。 「甘いものはお好きでしょう? あなたが城に来られていると聞いて、常備していたものを持ってきて正解でした」  疲れた時には甘いものですからね、と微笑むルイに何もかもを見透かされているような気がして、アシェルは思わずその視線から逃れるよう顔を背けたが、ルイはあまり気にしていないのかニコニコと微笑みながらエリクにスープを下げるよう命じた。
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