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ふふふふふふふふ――――。
書類が積み上げられている机に齧りつき、羽ペンを走らせながら不気味に笑う男を、周りにいた同僚たちは引きつった顔で見つめた。長い白色の髪をゆるりと下でひとつに結び、冷たささえ感じる金の瞳の左側に銀のモノクルをつけた男は、その透き通るような白い肌も相まってとても美しいというのに、書類を見つめながら不気味に笑う姿は幽鬼にしか見えない。
もう時間も時間なので帰りたいと思うが、なまじ男の身分が公私共に高い為、彼が仕事をしているというのに堂々と帰るわけにもいかず、周りはチラチラと幽鬼のような男に視線を向けるが、おそらく自分が不気味な笑いを零していることにも気づいていないだろう男には、そんなささやかな視線など届きはしない。もしかして強制残業か? と誰もが顔を青ざめさせた時、一人の壮年の男がポンと男の肩を叩いた。
「おい、もう終業の時間だぞアシェル。お前が帰らないと、部下たちが気を使って帰れん」
男――アシェルが疲れた顔を上げれば、そこには苦笑しているアシェルの上司・サイラスが立っていた。サイラスの言葉にアシェルが視線を巡らせれば、皆が皆、何か悪いことでもしたかのように「ヒッ!」と引きつった声を零し勢いよく視線を逸らせている。まったく、彼らにとって自分はどれほど怖い存在なのかと小さくため息をついて、アシェルは握っていたペンをペン立てに戻すと椅子の背もたれに深く背を預けた。
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