ありあまるほどの、幸せを

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「こういう時は貴族というのも面倒ですね。侯爵家とはいえ、私は継ぐ爵位もない三男なのですが。まぁ、どっちでも良いです。どうぞ気にせずお帰りください。私は今日泊まりますから」  ほら、帰りなさい、と軽く手を振って部下に帰るよう促したアシェルは再びペンを手に取り、書類に視線を落とす。もう話はないとばかりの態度に、部下たちはチラチラとアシェルに視線を向けながらも帰宅していった。しかし、サイラスは帰ろうとせずため息をついて未だアシェルの側に立っている。 「まだ何か?」  書類から視線を上げようともせず問いかけるアシェルに、相変わらずだとサイラスは苦笑する。近くに適当な椅子を持ってきて座ると、やはり深々とため息をついた。 「そう何度もため息をつかれても困るのですが」 「お前が私を困らせる部下だからだ」  肘掛けに肘をついて寛ぐサイラスに、アシェルは滑らせていたペンを止め、ゆっくりと視線を向ける。その美しくもやつれた顔にかけられたモノクルがやけに冷たく光ったように思えた。
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