ありあまるほどの、幸せを

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 永遠とも思える時間がやっと終わると息をついて車椅子を動かそうと手を伸ばせば、それよりも先に後ろに立った侍従が車椅子を押した。どうやら彼らは〝王妃の命令〟を忠実に遂行するに余念がないらしい。もうアシェルの意志など彼らは受け入れないと充分すぎるほどに理解できたし、ここまでくれば車椅子を誰が押すかなど心底どうでも良い。もうどうにでも好きにすれば良いと、おおよそ妹が下した命令に抱くものではない心境で背凭れに身体を預ければ、車椅子はゆっくりと小部屋から出た。窓からキラキラと輝く陽光が降り注ぎ、思わず顔を顰める。別段、日の光が嫌いなわけではないが、窓も無かった部屋から出た身には少々眩しすぎたようだ。 (それにしても、随分時間が経ってたんだな)  おそらくは、もうすぐ式典が始まる時間だ。今日は陛下もサイラスも式典に舞踏会にと一日中忙しいだろうからと朝早く出てきたというのに、これでは挨拶などする時間はない。せっかく同じように侯爵家の当主夫妻として一日中忙しくする兄夫婦がいない間に引っ越そうと企んでいたが、それも怪しくなってきた。メリッサのことを考えれば、多少の出費を犠牲にしてでもどこかのホテルに一泊だけして、明日に挨拶をし、その足で田舎の屋敷に行った方が良いだろうか。
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