ありあまるほどの、幸せを

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「あと少しすれば、部下ではなくなります。それまでご辛抱ください」 「だからだ。馬鹿なアシェル」  やれやれ、何もわかっていないと、サイラスは再び大きなため息をついた。そう、アシェルはもうじきサイラスの部下ではなくなる。彼は何を思ったのか、唐突に、何の前触れもなく王へ辞表を提出したのだ。アシェルは王妃の兄であるから、この唐突で理由も何もわからない辞職を王や王妃が止めてくれるものと思っていたが、サイラスの予想に反して王も王妃も反対することなく、すんなりと受理してしまった。おかげでサイラスが辞表の提出を知ったのは全てが終わった後で、アシェルを止めることも説得することもできなかったのだ。ただ、王が「辞職は三か月待ってほしい」との条件を出したからこそアシェルはここに居るに過ぎない。それももう、残りはあとひと月もないが。
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