ありあまるほどの、幸せを

87/268
前へ
/268ページ
次へ
「まさか。城での仕事が休みだからといって、それが暇な時間になるわけではないからね。今日はこれを届けてほしいと頼まれたから、持ってきたんだ」  言葉から察するに、今日は元々仕事が休みだったのだろうが、それでもソワイル侯爵の婿として多忙を極める兄がわざわざ足を運ぶ用事とは何だろうと若干の警戒を見せるアシェルに、ジーノは懐から一通の封筒を取り出した。 「私も気乗りはしないんだけど、ソワイルに婿入りしてもウィリアム兄上の弟であることに変わりはないからね。受けるかどうかは任せるけれど、一応、渡しておくよ」  白地に青と銀が美しい封筒に視線を落とせば、そこには確かにノーウォルトの家紋の封蝋が押されていた。〝気乗りしない〟といったジーノの言葉もあり、嫌な予感が拭えない。ほんの少し眉間に皺を寄せながら封を開ければ、そこには兄ではなくメリッサの筆跡で、招待状のようで招待状ではない何かが書かれていた。 「…………これは?」  何度読み返しても理解することができないそれに、アシェルは考えることを早々に諦めて兄に答えを求めた。しかし求められた兄も困ったように微笑みながら首を傾げている。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

295人が本棚に入れています
本棚に追加