ありあまるほどの、幸せを

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「私も何度か見直したけど、ノーウォルトではないみたいだ」  ジーノは懐から開封済みの手紙を差し出す。そこにはアシェルがもつ手紙と同様に、開催場所はノーウォルトではなく、ジーノのソワイル侯爵邸か、今いるロランヴィエル公爵邸で行いたいとあった。メリッサとしてはジーノかアシェルが主催したお茶会にノーウォルトは兄弟としてお呼ばれした、という形を取りたいのだろう。お茶会を催すのであれば自らの屋敷か別邸に招いてもてなすのが常識で、今のノーウォルトにはそのような余裕など無いのだから。 「おそらくソワイルとしても、カロリーヌとしても、陛下やロランヴィエル公爵と交友を深めるのは賛成だろう。けれど、兄上や義姉上も参加となると難色を示すと思う。式典の時にフィアナが兄上や義姉上に必要以上の言葉を許さなかったことが、カロリーヌには気になったようだ。陛下はともかくとして、もしやロランヴィエル公爵は性格的に兄上や義姉上と合わないのでは、とね」  ロランヴィエルは数ある貴族の中でも王に一番近いと言っても過言ではない上位貴族だ。公爵と繋がりを持ちたい貴族は数多く、ソワイルも例外ではないのだろう。侯爵たるノーウォルトでさえ、ルイが望まなければ婚姻関係を打診することも許されなかった。茶会に参加するのが国王とロランヴィエル公爵とあっては、何を差し置いても参加したいところだろう。だが、同時に何か問題が起きてロランヴィエルがノーウォルトを見放してしまえば、親族関係にあるというだけでソワイル侯爵にも害が及ぶかもしれない。茶会の主催などすればなおさらだ。かといってアシェルがロランヴィエルの屋敷で茶会をしたいと提案するなど、現状を考えれば何とも不自然でルイが不信を抱くのは必定。どの道を選ぼうとも危険な橋だと頭を抱えるカロリーヌが目に見えるかのようだ。
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