ありあまるほどの、幸せを

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「王妃殿下よりご伝言を預かってまいりました。今ならば時間が空いているのでよろしければお話しながら昼食をご一緒にいかがですか、とのことでございます」  王妃であるフィアナは公務で多忙だ。今を逃せば次はいつ時間が取れるかわからない。思わず顔を見合わせたアシェルとジーノは、無言のうちに頷いた。それを見ていたわけでもないだろうに、スッと音もなくエリクが現れる。 「城へ行かれるのでしたら馬車をご用意いたしましょう。私もお供いたします」  いらない、と言いたいところだが、彼はルイに命じられているだけだ。公爵としての体面もあるだろうと、アシェルは疲れたように小さく息をつきながらも頷く。こんな状態であっても貴族としての考えをしてしまう自分が恨めしい。  エリクによって手早く支度を済ませたアシェルは、ジーノに手伝われながら馬車に乗り込み、城へ向かう。すぐにたどり着いた城の車止めではフィアナが命じたのか、侍女と侍従が二人ずつ待っており、馬車の扉が開くと同時に深々と頭を垂れた。
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