ありあまるほどの、幸せを

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「ジーノお兄さま、アシェルお兄さま、お待ちしておりましたのよ。どうぞいらして」  早く早く、と子供のようにはしゃぎながらフィアナは二人の兄を手招く。尊き王妃もまた、人の子だ。よほど兄に会えるのが嬉しいらしい。 「ジーノお兄さまの執事が予定を聞きに来るなんて何事かと思いましたけれど、どんな用事であろうと構いませんわ。式典や舞踏会では満足にお喋りできませんでしたもの。今日はいつまでいてくださるの? 昼食は今からいただきますけれど、午後のお茶もご一緒できるのかしら?」  今日はいつまでいられるの? とは、フィアナの口癖のようなものだ。まだまだ親に甘えたい盛りの子供であったフィアナがラージェンの妻として、未来の王妃として城に住まうようになってから、彼女は兄が顔を見に来るといつもそう言って、できるだけ長く兄を引き留めようとした。いつまでも変わらない妹に、相談事も一瞬吹き飛んで穏やかな気持ちになる。例えどれだけ謀られようと、勝手に人生を決められようと、妹が可愛いことに変わりはないようだ。
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