ありあまるほどの、幸せを

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「ロランヴィエル公爵が? しかし……」  確かにルイはスープくらいは完食してほしいと常々言っていたが、今日はフィアナが昼食を用意してくれたのだ。ここでスープなど出してしまえばフィアナも、作った料理長も気分を悪くするだろう。 「あら、ロランヴィエル公はよくわかっていらっしゃるわ。お兄さまったら、年々食べなくなってしまわれて、随分お痩せになりましたものね。お兄さま、せっかくの公爵のお心ですわ。私たちに構わず、食べてくださいませ。スープなら、全部食べられますわね?」  流石に無礼だとスープを下げてもらうよう口を開いた時、楽しそうに笑うフィアナがそれを遮った。どうやら彼女は気分を害するどころか、兄が殊更大切にされていることがわかってはしゃいでいるらしい。早く早く、と促されては下げるのも憚られて、なんだか最近は流され過ぎなのでは? と思いつつもカトラリーを取った。 「さて、アシェルも大人しく食べてくれているようだし、あまり食事中にするような話ではないけれど、本題に入ろうか」  読んだ方が早い、とジーノは持ってきていたメリッサからの手紙をフィアナに差し出した。封筒を裏返し宛名を確認したフィアナの瞼がピクリと微かに震える。
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