雪吊りの庭

1/4
637人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ

雪吊りの庭

ーーーー結婚式から数日後 「湊さん、速達ですよ」  多摩から手渡された封筒は、掛かり付けの石川県立中央病院からの書面だった。 「あれ」 「どうしたの?」 「検査の予定が早くなってる」 「なんで?」 「分かんない」  大腸内視鏡検査の予約は半月先だった。 「1月20日だって」 「私も付いて行って良い?」 「冷えるから駄目!家でじっとしていて!」 「はぁい」  診察室に呼ばれた湊はその雰囲気に気圧された。 ピッピッピッ  規則的に響く機械音 白い逆光の中、白髪で銀縁眼鏡の主治医がモニターを湊へと向けた。マウスがゆっくりと弧を描き、黒い画面に白い内蔵、筋肉、脂肪、骨格が映し出され輪切りにされてゆく。 「綾野湊さん」  手元のカルテに目を落とした。 「はい」 「違和感を感じたのはいつ頃からですか」 「去年の4月頃です」 「食欲が落ち始めたのはいつですか」 「6月の終わり頃です」 「胃が傷み出したのは」 「8月のお盆」 「背中や腰の痛みはありましたか」 「10月になってからです」 「それで昨年末に下血された」 「はい」  大きなため息。 「ご家族やご親戚でこのような方はいらっしゃいましたか」 「父が、父がそれで」  膝の上で握られた湊の拳の中はじっとりと汗ばんだ。 「綾野さん」 「はい」 「所見としては悪性の腫瘍」 「はい」 「進行具合はステージ3、腹腔内への浸潤が見られます」 「は、はい」 「胃癌と診断されました」  周囲の音が消えた。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!