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雪吊りの庭
ーーーー結婚式から数日後
「湊さん、速達ですよ」
多摩から手渡された封筒は、掛かり付けの石川県立中央病院からの書面だった。
「あれ」
「どうしたの?」
「検査の予定が早くなってる」
「なんで?」
「分かんない」
大腸内視鏡検査の予約は半月先だった。
「1月20日だって」
「私も付いて行って良い?」
「冷えるから駄目!家でじっとしていて!」
「はぁい」
診察室に呼ばれた湊はその雰囲気に気圧された。
ピッピッピッ
規則的に響く機械音
白い逆光の中、白髪で銀縁眼鏡の主治医がモニターを湊へと向けた。マウスがゆっくりと弧を描き、黒い画面に白い内蔵、筋肉、脂肪、骨格が映し出され輪切りにされてゆく。
「綾野湊さん」
手元のカルテに目を落とした。
「はい」
「違和感を感じたのはいつ頃からですか」
「去年の4月頃です」
「食欲が落ち始めたのはいつですか」
「6月の終わり頃です」
「胃が傷み出したのは」
「8月のお盆」
「背中や腰の痛みはありましたか」
「10月になってからです」
「それで昨年末に下血された」
「はい」
大きなため息。
「ご家族やご親戚でこのような方はいらっしゃいましたか」
「父が、父がそれで」
膝の上で握られた湊の拳の中はじっとりと汗ばんだ。
「綾野さん」
「はい」
「所見としては悪性の腫瘍」
「はい」
「進行具合はステージ3、腹腔内への浸潤が見られます」
「は、はい」
「胃癌と診断されました」
周囲の音が消えた。
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