3月3日(火)

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「綺麗な色の鳥だな。」 「とり・・・?」 顔を上げるとミコトくんが今にも吹き出しそうな様子でこちらを見下ろしていた。 「元々アリサが飼ってたセキセイインコで『アン』っていう名前なんです。パーティーにも参加したんですよ。」 ───『あ・・・あん・・・。』って言ってたのってあの控え室での私の声じゃなくて、セキセイインコが自分の名前言ってたんだ・・・確かに声に違和感あったけど、ああいうことされてる時の声だからだと思って・・・。 すっかり気が抜けて、だらんと脱力してしまった私を見てミコトくんがついに吹き出した。そんな彼をキッと睨み付けると『ふーん。僕のことそんな目で見るんだ。』とでも言いたげな冷たい視線を返してきて背中がゾクッとした。 ───やっぱり茉結に頼んで、私は別の世界から来た私で、ミコトくんと関係があった私ではないことを話してもらった方がいいのかな、でも・・・。 ここにいた私とミコトくんとの関係を勝手に明かすのはどうしても気が引けた。 「そうだ、先輩。先輩から田淵(たぶち)と僕が引き継いだ案件について、聞きたいことあるんですよ。ちょっと僕の席に来てもらっていいですか?今ちょうど田淵もいたんで。」 田淵侑人(ゆうと)くんは一年後輩で、茉結の彼氏だった。 「あ、ああ・・・。」 風凛くんは床に膝をついている私に視線をやりながら、ミコトくんについて廊下の方に向かった。 『つい一昨日、決めたことだけど、やっぱりさ・・・。』 風凛くんの言葉の続きが気になって仕方がなかったし、重ねた手の温もりがいつまでも消えてほしくないと思ってしまった。 ───さよなら、したのに、しなくちゃいけないのに・・・。 いっそ仕事をやめて自分のことを知る人がいないところに行こうかと思ったが、私がこの世界を離れられて元々ここにいた私が戻ってきた時のことを考えると、勝手に転職するわけにもいかないと思い、思いとどまることにしたのだった。
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