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風凛くんがフレンチトーストを作ってくれている間、部屋のあちこちを確認してみた。
クローゼットの洋服も、トイレの掃除用具一式も、タブレットに入っている動画視聴アプリの中の登録チャンネルも、下着以外の全てのものが私のものそのままだった。そして下着の他に違うのは・・・。
───風凛くん・・・。
彼はあまりにもいつもの彼と違った。喋り口調だって『~だよ。』とか『~なんだ。』みたいな感じだったのに。今の風凛くんは見た目とのギャップがあり過ぎだ。
───でも、それがなんか・・・ぞくぞくする。
それにしても神様は意地悪だ。私はもう風凛くんのことは忘れたいのにどうしてこんな夢を見せるのだろう。忘れようとしているからだろうか。
───変な夢だけど・・・なんだか幸せ・・・。
このままフレンチトーストの食パンのように、甘い卵液みたいなこの夢に浸っているのは心地良いけれど、いくら夢でもこのままではいけない気がした。私は風凛くんへの気持ちを断ち切りたいのだ。
───ひたひたのフレンチトーストみたいになる前に言わなくちゃ。
「・・・ねえ、風凛くん。」
「もう少しだから待てよ。」
真剣な様子でフレンチトーストをひっくり返している風凛くんは顔を上げずに応じる。そんな彼の隣に行き、火を止めた。
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