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ふわり、と唇に舞い降りた柔らかくて温かい感覚。
「叶未、そろそろ起きないとだけど、大丈夫か?仕事休むか?」
目を覚ましたらそこにはまた風凛くんではない風凛くんがいた。
───まだ夢の中?さすがにおかしいよね。お酒飲み過ぎるとこうなるの?小説とかで『夢の世界に捕らわれる』とかあるけど、まさかね・・・。
「大丈夫。行くよ。」
夢の中なのだからくそ真面目に仕事に行かなくたっていいのに、私はサボったりズルをしたりするのは嫌な性格なのだ。そうすることで損をするとわかっていても。
夢の中でもシャワーは気持ちがよかった。寝ているはずなのに頭の中までスッキリする。
───あんなことがあって、私は風凛くんと寄りを戻したいなんて全く思ってない。これは私の『あんなことが起こらず、こんな風だったらよかったのに。』という想いが現れてる夢なのかな・・・。
下着はすごいのしかないのでサニタリーショーツを身に付けることにした。
風凛くん作のフレンチトーストは少し焦げていて卵の殻も入っていたけれどとても美味しかった。風凛くんが私に何か作ってくれたのは初めてだったからその気持ちが嬉しかったし、一生懸命キッチンに向かう彼をかわいいなと思った。
風凛くんは自分が苦手なことには手を出さないタイプだったな、と思い出す。時間はかかると思うけれど、いつか彼との恋が思い出になったらいいなと思う。
後片付けと身支度を終え外に出ると風凛くんが手を繋いできた。
付き合い始めた当初からスマートな彼だったのに、この夢の中の彼は何だか初々しくて手を繋ぐのもぎこちない。それをとても新鮮にかつ好ましく感じながら仕事に向かった。
この時はまだ、いつかこの夢は覚めるだろう、と思っていた。
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