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肌と肌がぶつかるパチン、という乾いた音がして、手のひらに痛みを感じる。
夢の中だということは全く頭になかった。人前で感情、特に怒りを強く表すなんて恥ずかしいことを普段なら絶対にしない。なのに自身が梨衣乃にされたことに対する怒りも一緒になって自分をコントロールできなかった。
「誰?」
梨衣乃は頬をおさえることもなく涼しい顔で言った。私のことを知らないのだろうか。
「叶未ちゃん!?」
「ああ、あんたの友達?じゃ、あたしもう行くね。もう言うことないから。」
梨衣乃は社内で私物を持ち歩くためのクリアなミニトートを持って更衣室を出ようとした。
「待ってよ梨衣乃!」
「何?よくあたしの名前知ってるね。」
梨衣乃は飄々としている。
「皆があなたみたいじゃないんだよ!あなたは自分の彼氏が他の女の子と関係持っても大丈夫なのかもしれないけど、普通は嫌なの!そんなの耐えられないの!どうしていつも他の人の気持ち考えないの!?」
「あたしはあたしだから、あたしの気持ちしかわからないよ。人の気持ちなんて想像したところで違うかもしれないし。じゃ。」
「ちょっと待ってよ!」
「叶未ちゃん、もういいよ!」
いつもと同じ香水の香りを残し梨衣乃が更衣室を出ていく。カツンカツンというヒールの音は何事もなかったかのように軽快だった。
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