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「私は元々ここにいた叶未ちゃんじゃなくて、今ここにいる叶未ちゃんにこのままここにいてほしいな。前の叶未ちゃんとも仲良くしてたけど・・・その・・・男の人とのそういう関係に対する考え方が合わなかった。だから叶未ちゃんが更衣室で岡部さんを叩いた時、もしかして違う叶未ちゃんなんじゃ・・・!と思ったの。それまではパラレルワールドに来てしまったのは私だけだと思ってたけど。」
「茉結・・・。」
「風凛先輩も正直なところそうなんじゃない?オリジナルの叶未ちゃんじゃなくて、今の叶未ちゃんのことの方が好きなんじゃないかな?」
「え!?どうして・・・?」
「風凛先輩、この数日明らかに幸せそうだったもん。叶未ちゃんがこの世界に来てから。前は何となく悩みを抱えてる感じだったの。憂いてるっていうか。でも今はそれがすっかり晴れた感じがする・・・あ、あくまでも受付前通る時に見てて感じるだけだけどね。」
「それは嬉しいよ。それでも・・・私は私がいるべきところに帰らなくちゃ。」
揺らぎそうになる心をがしっと掴んで固定する。心の中の私の『このままここにいたらいいじゃない』という声も聞こえないふりをする。
「そっか。ごめんね。変なこと言って。」
「ううん。ありがとう。嬉しかった。」
「じゃ今週末にでもその酒屋さん行ってみよっか。」
「うん。ありがとう。」
茉結の言う通り、酒屋さんに行っても何もわからないのではないかという想いが大きかった。ただ、出来ることは何でもしたかったから、少しでも前に進んだようで気持ちが明るくなった。
「私、トイレ行ってくるね。」
「うん。」
茉結がトイレに立つと、彼女が座っていた席にうさぎがやってきてくつろいでいる。
「もしかしてそこがお気に入りなの?ふふ、かわいいね。」
スマホをかまえてシャッターを押すがすぐに去ってしまった。
今のちゃんと撮れたかな、とカメラロールを開く。
「え・・・っ!?」
昨日、3月3日に撮られたものとして保存されていた写真に目が釘付けになった。
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