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「お、おはよう・・・ございます。」
会社の人達が皆通る道だから、先輩である風凛くんに敬語で挨拶を返す。すると彼は傷付いたような顔になる。
「それ、やめろよ・・・寂しいから。こないだ、休憩スペースではタメ口で話してくれたのに。」
「それは・・・。」
『私』は自分がいるべき元の世界に戻るんだし、ここにいるべき『この世界の私』という相手がいる風凛くんとは距離を置かないといけない、その気持ちを新たにした故の敬語だった。
「あの時言いそびれたけど・・・!」
風凛くんが言いかけるが、大きな飼い犬に引きずられるように散歩をしている人が歩いてきたのに気付いた彼は、私の体に手を当て守るように導いて横にそれる。
それた先には水道と小屋があった。遊歩道を整備する為の道具などが置かれているのかもしれない。風凛くんに手を引かれその小屋の裏に回る。
───手・・・。
離したらまたあの傷ついたような顔をさせてしまいそうで離せなかった。小屋と生け垣の間の狭いスペースで向かい合う。
「俺・・・叶未が好きだ。」
「うん・・・。」
わかっていることなのに、胸が苦しくなってしまう。
「前までここにいた叶未じゃなくて、今目の前にいる叶未だけが好きだ。」
「!?」
「俺の相手はあの叶未だってわかってる。でも・・・行かないでほしい。」
そう言われてグッと抱き寄せられる。
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